]-ii 指輪ii 釈明
「毎回思うんだけど、任務の事ならスマホに送ってもらえたら良いんですけど」
私は不機嫌だからこんな事まで言ってしまう。するとXANXUSに睨まれたが、そんな物で屈するようでは諫言などできないというものだ。優秀な部下は上司にもきちんと意見するべきである。それが的外れな意見でない限り。
「別に任務の為に呼んだ訳じゃねえ」
「任務無いのかー」
いやいや、任務じゃないなら何の為に呼んだのよ。女遊びに出かけて帰って来たら呼ぶって何事なのだろうか。どういう気持ちで私と話しているのだろうか。そもそもこいつにとってセックスはそんなに意味を持たないのだろうか。
私には考えられない。だからこそ、今まで遊んできた相手は行為後速やかに殺していたのだ。それはつまり、私の体を知る奴を特別扱いしていたからだ。
「来い」
普段通りの命令口調も面倒に思える。来いって何よ、先に用件を言いなさいよ、と思いながらついて行くとこの間と同じベッドの前に着いた。え?今日の女ではご不満でしたか?それで私?おかわり要員なの?
「座れ」
ベッドの座ったXANXUSにそう言われる。せめてもの抵抗で近くにある椅子に腰を下ろす。私はそんな尻軽ではない。あの時は少ししょうがなかっただけなのだ。打てば飛ぶわけではない。
「何が不満なんだ」
少しの沈黙を破ったのはXANXUSだ。彼は気まずい沈黙が大嫌いなのである。これは聞いたわけではないが、見ていたら分かる。わがまま赤ちゃんが気まずい空気に耐えられるはずがない。私だって苦しいのに。
「別に、不満とか無いですよ」
「じゃあ何なんだ、その態度は」
「別に」
なぜ親に説教される思春期の娘みたいな事になっているのだろうか。実際親に説教される思春期の娘なんかは物語の中でしか見たこと無いのだが。フィクションの可能性もあるのだろうか、と頭の中はいつでも冷静である。
「ドカス共から聞いた」
「いや誰の事か特定できん」
「女遊びして来たと聞いたらしいな」
体が強張る。いやいや、何?何でそれをわざわざXANXUSから釈明されなければならないのだろうか。私へアフターフォローのつもりだろうか。私にはしなくて良いから、ちゃんと今晩会った女のフォローしておきなさい。
「アレスは自分で思っているより分かりやすいからな」
「XANXUSに言われたくねえな」
分かりやすい……のだろうか。少なくとも今の不機嫌は早く帰りたくてわざわざ態度に示したのだが。何が分かりやすいというのだろうか。
「お前を抱いたのに他の女の所行くわけねえだろ」
「え」
「やっとお前を抱けてその感触が今でも離れてねえのに、他の女抱けるわけねえだろ」
「感触……残ってるんすか」
立ち上がったXANXUSが私を見下ろす。これは、彼なりの言い訳なのだろうか。女の所には行っていないぞ、と。言い訳をわざわざされる必要性は感じないが、それでも心のどこかで安堵している。
私は別に鈍感では無いから、こうやって言い訳をされる理由は想像できる。この想像が外れたらとても恥ずかしいのだが、空気が変わったのを察知する。私はこれが苦手だ。
「アレスの体には残ってないのか」
苦手だが、体の奥からゾクゾクする何かがこみ上げてくる。こんなのは初めてで、何がなんだか分からない。気持ち良いが気持ち悪い感覚だ。自分でも何を言っているのか分からなくなった。冷静さはどこに行った。
「残ってないよ、そんなの」
「本当か?」
そう言いながらXANXUSの顔が近づく。あ、結構綺麗な目してるんだな。今まで注目して見たことはなかった。
と、どんどん接近する目を見ながらそんな事を考えていたら、とうとう彼が目を閉じた。あ、まずい、と思った時には既に唇と鼻に何かが当たっていた。
離れたXANXUSの顔はとても綺麗で、それは今まで感じた事がなかった為に戸惑った。彼の顔が綺麗かどうかなど気にした事はなかった。しかし、今になって見てみると綺麗だという感想しか抱けなくなった。
そしてそのままXANXUSは去ってしまった。何?これで放置?と少し戸惑う。この間彼と寝た時はキスなどしなかった。彼があんなに優しく触れるキスができる事に驚いたが、行為の優しさを考えれば意外ではないのかもしれない。そもそもセックスした後にキスするって違和感があるよな。
数秒して戻って来たXANXUSは小さな箱を持っていた。私へのプレゼントなのだろう。このような小さなサイズの箱は何なのだろうか。箱の種類を見たら分かるが、高級ジュエリー店のものだ。となればらピアスかネックレス?いやでも何故そこまで……?
XANXUSに無理やり渡されて、開けろと指示をされる。特に深く考える事なく箱を開けたらそこにあったのは、
「……指輪?」
「ああ」
何故指輪なのだろう。私は告白されるのか。それにしても初っ端で指輪は重いんじゃないんですかね?恋人とかいた事ないから知らないけど。
しかし彼はそんな平凡な私とは違うようで、もっと力強く、スピード感のある男だった。
「結婚するぞ」
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