]-i 指輪i 呼び出し

 あれからまた数日。夕食前に談話室の前を通るとルッスとベルが話しているのが聞こえた。

「何でボスいねーの?」

 どうやら話のテーマはXANXUSらしい。ついつい足を止めて盗み聞きすることになった。

「もうっ!野暮なことは言っちゃダメよ!アレに決まってるじゃない、アレ」
「アレ?」
「私の死体漁りみたいなもんよ」
「ゲエー、飯の前に聞くもんじゃなかった」

 アレ?ルッスにとっての死体漁り?という事は、女だろうか。そう考えるととても不愉快になった。私はあれから男遊びなんかしていないというのに、という考えに頭の中が埋め尽くされる。

「アレって何?」

 そうやって話に入りに行くとルッスとベルはあからさまに「やばい」という顔をした。そんなん聞かなくても分かるってものだ。

「いや、ほら、憶測!私の憶測なのよ〜」
「ほんと馬鹿なこと言うなよ。ド変態のオカマだからって」
「あらやだ!オカマは関係無いでしょ!そういうの厳しい世の中になって来てるんだから」
「うるせー、少なくともこのオカマは変態オカマだからいんだよ」

 話題を逸らされたが、深追いはしないことにしよう。そもそも私を見てまずそうな顔をしたのは何故なのだろうか。もしかして、私がXANXUSとやっちゃったのがバレたのだろうか。いやいや、バレるとしたらXANXUSが言いふらす以外には無いし、そんな事はしないだろう。では一体何故なのだろうか。
 理由が分からず疑問に思いもやっとしたが、聞ける雰囲気でも無かった為、どうでも良い話をして夕食までの時間を潰した。基本的に食事の時間以外は仕事に追われているから、とても貴重な時間ではあった。結局夕食にもXANXUSは来なかった。


 あの日、私が彼のベッドで寝てしまってから目を覚ましたらそこには寝ているXANXUSがいた。焦って時計を確認すると、部屋に来てから2時間経っているようだった。
 まさかXANXUSに添い寝されるとは。彼を赤ちゃん扱いしていたのに、最近は私の方が子供のようだ。とても悔しい。ただ、彼の安らかな寝顔はやはり心なしか幼く見える。

「XANXUS、起きて」

 放置して部屋を後にするわけにもいかないだろう、と思い彼を起こす。別に寝ぼけて抱きしめられるなどといったことは起こらず、ただ一言「うるせえ」とだけ言われた。全く起きる気配が無いところを見ると、恐らく寝言か夢半ばなのか。ともかくその日はスマホでメッセージを残し、部屋を後にしたのだった。

 それ以来彼とは幹部で集まる時以外は会っていない。メッセージは既読になっているものの返事は来なかった。それはいつものことなのだが。


「別に、どうでも良いし」

 そう言いながら夕食後に武器の手入れをする。匣から出す物とは言え、当然手入れをしなくては使い物にならない。武器は消耗品である。なるべく手に馴染むこれを長持ちさせる為には管理が大切なのだ。
 そして雲オオカミを匣から出してやり、一緒にベッドの上で休む。何となく雲オオカミを毎日部屋にいる間は匣から出してやっている。そして1日に1回は辺りの森を自由に駆け回らせる。良きパートナーだ。

「ねえ、嫌になっちゃうね。早く暴れ回りたいなー、任務来ないかな」

 基本感情は雲オオカミにぶつけている。一緒に喜んだり慰めてくれたりするのを見ると、どうやら私の感情は伝わっており、共感することも出来るようだ。とても賢くてかっこいいのである。

 そうやって雲オオカミと交流して遊んでいると、スマホがメッセージの受信を知らせた。確認するとそれはXANXUSからだった。
 任務!と一瞬喜んだが、そもそも任務に行きたい原因を作っているのは彼だ。彼には何となく不快だから会いたくない。けれど彼が上司である以上、私は逆らうことが出来ない。一応XANXUSに忠誠を誓ってしまった過去も持つし。

 仕方なく部屋を出てXANXUSの部屋へ向かう。足取りが重い。嬉しいような不快なような複雑な気持ちだ。胸の辺りに何かがつっかえて気持ち悪い。早く取り出してスッキリしたいものだ。


「お待たせしました」
「遅え」
「厳しいな」

 XANXUSの部屋に入ると久々に文句を言われた。久々ではないのかもしれないが、そもそも話すことが久々な気がする。

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