]-iii 指輪iii 私は、なぜ

「……え?」

 結婚って何?あの公的に親族になる手段の一つの結婚?結婚?誰と誰が夫婦になるってんですか?

「何の問題もねえだろ」
「いやいやいや大アリでしょ!」

 そう訴えるも、頭の上に疑問符を浮かべる29歳児。くそっ、可愛い!と思うも、普通に考えて可愛い見た目はしていないので冷静になる。初めて会った時は心の中でゴリラ扱いしていたくらいだ。

「そもそも、なぜ結婚なの?」
「はっ、アレスを支えたいと思ったからに決まってんだろ」
「マジっぽい理由を言われた……!」

 そんな事も分かんねえのか、という顔をされたが、そもそもそういう問題ではない。これは自分たちの自由意志でする結婚ということになるのだろう。別に少なくとも私には結婚するメリットが無い今、それでも結婚する理由としては恋愛感情が挙げられるのだろう。

「え、XANXUS、私の事好きなの……?」

 そう聞くと彼は答えなかった。この沈黙だけだと肯定なのか否定なのか分からないが、恐らく肯定なのだろう。人から好意を寄せられた経験ならあるから分かるのだ。

「すぐ結婚って言うのもどうかと思うよ」
「何でだ」

 それは、ごく普通の答えである。乙女な理由にはなってしまうが、「恋愛をしてみたい」というものだ。恋愛感情を抱くことの出来る人間であれば誰しも持つ好奇心によるもである。私はまだ誰にも恋愛感情を抱いた事は無いが、それでもこの淡い夢は抱いている。
 私が好きだと思う人から好かれてみたい。ときめいてみたい。好きだなあ、と思ってみたい。それは、XANXUSと結婚したら叶わない可能性がある。彼を好きになるかどうかは今の私に分かるわけがない。

「分かった」

 この人があっさり引く事に驚いた。そもそもそんなに本気では無かったのだろうか。そう考えと少し悔しく、胸がギュッと苦しくなる。遊ばれているような気がして。

「時間をやる。拒否するなら俺を殺してからにしろ」
「酷い脅しだね!」

 そしてXANXUSは私の額にそっとキスをして「自覚させてやる」と言い、私を部屋から追い出した……所までは覚えているのだが、一体どうやって部屋に戻ったのか思い出せない。気がついたら自室のベッドの上に座っていた。

「あ、あれ……?」

 頭と心臓がピリピリする。何なんだこの感覚は、と戸惑いながらも、とりあえずシャワーは浴びる事にした。服を脱ぎ指輪を外し、タオルと着替えの用意をしてシャワー室へ向かう。身体中のそわそわはシャワー程度では落とせなかった。


「部屋に来い、ねえ」

 あれから毎日部屋に呼び出されてはアプローチを受けている。そして今度の休みには何処かに出かける約束まで勝手に取り付けられてしまった。そもそも相手が悪いのだ。命の為には断るわけにはいかない。

 私は人を殺す能力に長けているし、ヴァリアー幹部で殺し合いをしたとして、まあまあ良い位置につけるとは思う。実力は拮抗しているが皆それぞれに特徴があり、相性が合えば倒せる相手もいるだろう。
 けれどXANXUSには勝てる気がしないのだ。少なくともあの炎に身惚れた人間の内の一人なのだから、あの炎を向けられたら受けてしまうだろう。そんな事になったら一発でアウトだ。それを抜いても実力は私より上だろう。とにかく彼にだけは勝てない自信がある。

 だからこそ、私が彼の言う事を聞くのは命の為だと言い聞かせてはいるのだが、ふと体の関係を持つ前の事を考える。私は何故彼の言う事を聞いていたのだろうか。日本に行った京都お餅旅行を思い返す。
 あれはXANXUSが私を誘ったという解釈をして行く事にした。では一体なぜ彼に誘われたからといって任務を放棄してまで日本に行ったのだろうか。移動時間は長く、苦痛を伴うはずなのに。

「XANXUSの望みを叶える為」

 それは、命の危機があったからなのだろうか。あそこで断ったからといって彼は私を殺しただろうか。私の命を危なくするような選択をするのだろうか。
 いや、そんなはずはない。私はただXANXUSが悲しい思いをするのが嫌だったし、喜んでもらいたかったのだ。

「とはいえ、結婚は違うよね、雲オオカミくん」

 お悩み相談役の雲オオカミに話しかけながら頭の中を整理する。とにかく、私は基本的にXANXUSが喜ぶ事をしてあげたいと思っているが、結婚はまた違った話だという結論に至った。

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