\-viii 出生異聞奇譚viii 同時刻ヴァリアー邸にて

「何だあ」

 修行後の汗をシャワーで流していたら部下がシャワールームの扉を開けた。おいおい何勝手に人の部屋に入り込んで勝手にシャワー室開けてんだよ、と思ったが、余程緊急性の高い事なのだろう。シャワー中な為電話にも出ずスペアキーで部屋に入り込んだといったところだろうか。全く、セキュリティも何もあったものではない。

「何やら集団が南の方向からここアジトに向かって来ております。何の集団かは不明、人数は推定100人程度。あと10分程で着くかと」
「ボスがいねえ間に急襲か」
「はい。ひとまず重要な物は全て地下の格納庫へ移動させています」
「分かったぁ。幹部を談話室に集めとけ。他の奴らは包囲型の陣形だ」
「分かりました!指示します。失礼しました」

 アジトが狙われる想定は常にしてる為、ある程度の作戦は先に決めている。今回は一応全方位を守るものだ。建物全体を守るような配置になってる。
 このようなシチュエーションであっても流石に全裸で談話室に行くわけにはいかないからタオルでささって体を拭き、急いでヴァリアーの制服を着る。こういう時に長い髪は困るのだが、ヴァリアークオリティで拭いてしまえばキューティクルを傷付けることなくある程度タオルドライ出来るのだ。左手に剣を嵌めて談話室へ向かう。

「遅いぞ!」
「煩え」

 談話室に着くとレヴィに文句を言われたが、こちらはシャワータイムを切り上げて来たのだ。こんな緊急時に煩い事は言わないで頂きたい。そのわがままを言えるのはうちのボスさんだけだ。

「ししし、髪濡れてんじゃん」
「ほんとね、良い香りがするわあ」

 人を茶化すことしか考えないこいつらも何とかして欲しい。マーモンを見ろ、黙って指示を待っているぞ。どうせ俺ら全員で戦ったら負けることなど無いのだが、何せ面倒な奴らである為、後処理に困るのである。

「早くしてくれないかな。今結界でアジトを見えなくしてるんだけど」
「おお、マーモンはそれを続けてくれ。用があれば他の術師に任せても構わねえ。他の奴らは俺と一緒に敵の本体叩くぞお」
「えー、嫌だ」
「仕方ねえだろ、敵の居場所は掴めてんだ。とっとと行くぞ」

 すぐさま南向きの窓から飛び出す。遠くに群勢が見えた。とりあえずあそこを叩けば何か動きはあるだろう。

「王子が一番乗りだし」

 そう言ってベルが一人飛んで行ってしまった。ある意味で想定内だ。

「あらやだ、ズルいわよ!」

 そう言ってルッスも前に出るのも想定内。

「遅れを取るわけにはいかん!」

 そう言ってレヴィも出たのも想定内。結局誰も足並み揃える事なんかする気は無いのだ。今回も後処理が面倒な事になるのだろう。それでも仕方が無い。俺だって斬りたくて斬りたくてうずうずしているのだから。


 思い思いに押し寄せる敵を斬りまくり、とうとう全員殺し終わった。他の地点にいる面々と連絡を取ってもやはり全員倒したと言えるだろう。後はアジトの無事と隊員の無事の確認、そして幻術で惑わそうとする奴らがいた場合の処理をすれば大丈夫そうだ。俺は一足早くアジトへ向かった。


 どうやら部下達の報告によると襲って来た奴らはどれもただのゴロツキらしい。確かにどいつも斬りごたえは無かったし、威圧を感じる奴もいなかった。そんな雑魚がたったの100人で何をしようと思ったのだろうか。
 そんなことを考えていると交渉に行っているアレスから連絡が入った。それには今回の交渉の件、そして襲ったであろう敵の親元のことが書かれてあった。

「そんな自信たっぷりな様子で送って来たのがあの雑魚共とは考えにくいな……」

 つまり敵の狙いは、ボンゴレ本部。ここは囮であり、本部を狙った襲撃であるのだろう。まあ、一応本部に連絡を入れて確認をし、何かあれば呼ぶようにさせる程度で良いだろう。本気でまずい状態なら、そうなる前に連絡が来ているはずだからだ。

 そもそも今10代目とその守護者達が集っている本部が簡単にやられるはずもないのだ。


「う゛お゛ぉい」

 電話をかけた相手は同じ剣士でありおなじ雨の炎を持つ山本武。こいつは大体いつも楽しそうにしている為、アレスがサイコパス扱いしていた。今回の火種は失礼な奴である。

『おっ、スクアーロ。そっちにも行ったみたいだな。片付いたか?』
「当然だぁ。そっちはどうなんだ」
『こっちも片付いたぜ。手強かったけどな』
「ふん、やはりそっちに本命が行ってたのか。しけた奴らだぜ」
『ははっそういう事もあるさ』


 そして電話を切り、隊員の無事を確認して回った。

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