\-iii 出生異聞奇譚iii ディオニュソスファミリー

「わあ、趣味悪い」

 交渉の場は相手のファミリーのアジト。とうとう任務当日となり、車で4時間の場所までやって来たのだ。ヴァリアーの車は広いから何とかなったが、普通の車であったら耐えられないだろう。贅沢に慣れてしまった私には無理だ。ただ私以上にXANXUSの方が無理だろう。

「弱え奴ほど自分をデカく見せようとするからな」
「哀れだよね。XANXUSと私がいて殺せない奴なんかいないのに」

 海岸沿いにそびえ立つその建物は豪華絢爛なお屋敷だ。ただ豪華絢爛ならまだしも、全体的にセンスが悪く、もっと正しい表現をするとデザインがカオスなのだ。よくこんな所を根城にできるな、と思う。
 屋敷の門の前に着くとすぐに中まで案内された。そして交渉を進めるという部屋まで連れて来られた。案内された通りソファに座ると飲み物が提供される。一応口はつけないことにした。
 それにしても、全体的に不自然な感じがする。謎の違和感が常に身体中にまとわりついているのだ。そして一応客人として招かれている筈なのであるが、連れてこられた部屋の四隅には人がいて、常に見張られている。

「お待たせしました。ボスが参ります」

 そう告げた下っ端がドアを開けるとスーツの男2人が入って来た。そしてドスンとソファに座り、こちらに居直る。まず口を開いたのは金髪で眼鏡をかけた方の男だ。

「遥々お越し頂きありがとうございます。本当は私共が伺うべきなのでしょうが、何せこちらのボスということになっておりまして。面目というものですね」

 名乗りもせず1人で軽く笑う男はどこかで見た覚えがある。ボスということはこの男こそがアレッシオ・ディオニュソスなのだろうか。どこで見たかなかなか思い出せずモヤモヤが増えた。

「あ、すみません。まだ名乗っていませんでしたね。私、アレッシオ・ディオニュソスと申します。ディオニュソスファミリーの代表者です。こちらが私の秘書を務めるカルロ・ディオニュソスです」
「初めまして。カルロ・ディオニュソスと申します」

 もう1人のガタイが良く短髪の男が名乗る。そして一応私も名乗るべきかと思い口を開いたが、声を発する前に遮られてしまった。

「ああ、お名乗り頂かなくとも大丈夫ですよ。XANXUS様にアレス様。XANXUS様は有名人ですし、アレス様はパーティーでお目にかかったことがあります。それとも、私達の名字がお気になりますか?」
「あ、いえ……」
「私達、別に兄弟では無いのですよ。ファミリーの一員は皆この名字にするのです。ファミリー、家族を称する組織ですしね」

 このボスさんは話が長い人だ。なるほど、これならボンゴレ相手に交渉をしかけたのも理解ができる。今までも様々な相手に対して口で勝ってきた面があるのだろう。しかし今回はXANXUSが相手なのだ。悪かったな。

「ディオニュソスというのはワインの神から名前を借りているんです。私、元はワインの商人をやっておりまして。始めたのは15の時だったのですが、気がついたらマフィアになって」
「グダグダグダグダ煩えな」

 ボスさんの長い話を切るようにXANXUSがようやく発言した。今回はよく待ったな、と感心した。何か思うところでもあるのだろうか。

「とっとと本題に入れ」
「あー、本題ですか」

 ボスさんは部下に目配せをして用紙とペンを受け取った。それらをこちらへ差し出した。

「一応、建前としている交渉の話から致しましょう。こちらが契約書です。ボンゴレと抗争時の戦力共有を含んだ同盟を組まさせて頂きたいのです。先程も申した通り私共は元は商人の出です。儲け話でしたらいくらでもご用意出来るという点がメリットになりますかね」
「はっ、下らねえ。お前らみてえな弱小を相手にするデメリットに釣り合わねえ。却下だ」
「んー、まあ、そう言われると思っていました。是非とも私共の戦力を見て頂かなければなりませんね。そちらは保留ということで」

 相手のボスさんは案外すんなりとXANXUSの話を聞き入れた。そんなのであればわざわざ呼び出して話をする必要なんて無い。それに、もう一つ気になることがある。

「そんな事はどうでも良いんだろ。建前は何のことだ」

 聞きたい事はXANXUSが聞いてくれたからとても楽だ。ボスさんの隣にいる短髪さんのように何もせずこの場が終わると良いのだが。その期待は次の言葉で一瞬にして崩れ去った。

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