\-iv 出生異聞奇譚iv 母の娘

「私にとって用があるのはアレス、あなたです」
「私……?」

 XANXUSの方を見たら一瞬にして不機嫌モードに突入していた。元々私をご指名だったとは言え、話のついでにされるのは嫌なのだろうか。それとも私が呼び捨てにされて流れを変えられた事に対してなのだろうか。

「XANXUS様には席を外して頂きたかったのですが。そもそもお呼びしたのはアレスだけでしたし。まあ、過保護な保護者様にもお聞きいただきましょうか」

 XANXUSの不機嫌モードはどんどんレベルアップしていく為、私は気にしないことにした。別にこいつらが殺されても良いし。

「端的に言います。アレス、うちのファミリーに来なさい」
「はい?」

 話の内容も去ることながら急に命令口調で言われたことに対してついつい「はい?」が出てしまった。今まで丁寧な話し方をしていた人が急にそんなことになるのだから、仕方のない事だ。

「お前はうちに来て大人しく着飾っておけば良いんですよ。暗殺部隊だなんて血生臭い所にいなくとも」
「どういう意味だ」

 話を遮るのが大好きなXANXUSがまた話を遮る。私も意味が分からないので心の中で彼に加勢する。そうだそうだ、どういう意味だー!

「はあ、あなたには話してないんですがね。理由をお話ししましょう。なぜならアレス、お前は」

 そう言うとボスさんはスーツの内ポケットに手を入れる。何が飛び出すのかと身構えたが、出て来たのは写真だ。その写真に写っている人物は私にそっくりだ。ただ違うのは髪。

「私の娘なんですから」

 ……ん?

「突然何を言ってやがる」

 XANXUSがそう言う。するとボスさんは溜息をついた。

「全部説明するので、今度は遮らないで下さいよ」

 するとボスさんは写真を見ながら長話を始めた。

「彼女の名前はディアナ。娼館で働いていた女です。私は彼女と17の時に恋仲になりましてね。当時私は若かったので、他の客に抱かれる事に嫉妬してしまいまして。無理やり子供を作ったんですよ。妊婦など仕事にはならないでしょうからね。そして彼女は子供を生み一人で育て始めました。私は認知する、結婚しようと言ったのですがね。彼女はそれを拒みまして」

 鼓動が速くなるのを感じる。いつしか彼の言葉を聞くことに私の全てが集中した。娼館で働きつつ子供を産んだディアナと言えば、それは私の母だ。

「当時商売を守る為にファミリーを結成しました。それがこのディオニュソスファミリーです。その足枷になることを懸念して断った様なのですね。そんな事全く気にしなくても良いのに、本当に良い女でしたよ。そんな良い女の血と私の血を継いでいるのが、そこにいるアレスです。アレス、分かりますね」

 気がついたら無意識に頷いていた。少なくとも私が母の子である事は合っているからだ。XANXUSは黙って話を聞いてくれている。

「でも、だからと言って私があなたの娘という証拠は無いですよね」
「そう言われると難しいですね。医師に鑑定させるのが早いですが、ひとまずその綺麗な金色の髪と言っておきましょう。そして、これだけの事を知っているという事」

 結局証拠は無いんじゃないか、と突っ掛かりたくなったが、それはやめておいた。何だかんだ明確な証拠は無いくせにグダグダ言われるのか明白だからだ。

「話は以上か。アレス、このお誘いに返事をしてやれ」

 XANXUSがようやく口を開いたからそれに答えるように続く。

「私はそのお誘いをお受けする気はありません」

 するとボスさんの目が変わった。部屋の空気が変わる。下っ端達による緊張感に包まれた。

「そうですか。それは残念です。お前は母の事など何とも思っていない娘なのですからね」
「何を言っている」
「私は招かれたパーティーでお前を見て驚きましたよ。過去に愛した女と瓜二つなのですから。だから確認してやろうと思いあの日、街でお前に声をかけたのですよ」

 声をかけた?こいつは何を言っているんだ。と思ったが、思い当たる節がある。この男はあの日、母と私を見間違えた奴だ。あれは引っかけだったのか。

「見ず知らずの他人に母の名を明かすような事はしない。撤回しろ」
「では、母が守ろうとしたこのファミリーを守ろうとする事こそが親孝行なのでは無いのですか?」

 何を言っているのだろうか、こいつは。XANXUSを見ると、彼も呆れた様子だ。

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