第34話 リハーサル

 文化祭の準備は進む。パワーのある緑谷くんにもダンス隊と兼任してもらうことになり、誠に申し訳ない。私の操作だけでは心許ない部分をパワーで補ってもらうのだ。そして演出隊の皆と案を出し合い、実際に会場で試してみて使えるかを判断する。それを繰り返しつつ内容の精査もしていく。段々自分が舞台を作るプロにでもなった様な気分になって来るが、別に私の力ではなく皆の力なんだよなあと立ち止まって冷静になったりもした。

「良い感じに仕上がって来たな」

 会場となるステージでのリハーサル練習の休憩中に轟くんがしれっと現れた。彼のせいで切島くんと瀬呂くんからはヤンキー扱いを受けていて面倒なのだ。二人も加減は分かっているのでちょっとしたコミュニケーションの範疇ではあるのだが。

「皆と話し合って進めるって良いね」
「そうだな」
「私は勿論なんだけど、轟くんもそういう事無かったタイプでしょ」
「何の事だ?」
「最初なんか尖ってたし、人と話し合うなんて苦手そうだったんだろうなって」

 入学仕立ての頃の轟くんは怖かった。綺麗な顔が常に怒っていたし、話しかけるなオーラを出していた。割と話せる人だというのは彼の棘が多少丸くなり話せるようになってから気付いた。ただ、余計な事をよく言う事も分かったのだが。

「まあ、そもそもこんなステージの演出をしようなんて考えなかっただろうな」
「一人で参加しないかんじね。それでいね周りの誰も輪に入れようと話しかける事も出来ない壁を作って……」
「まあ、話しかけられてもやんねえしな」
「そんな態度だからだろうな」

 轟くんの話し方は落ち着く。良いテンポ感で話がコロコロと進むのだ。これだけ話が上手い人がずっと人と積極的に話すのを拒んでいたのだから、全く宝の持ち腐れだ。

「空間はどうなんだよ」
「私は、まあご想像通りだと思いますが……」

 そこまで言うとババン!とドラムの音が大きく鳴る。煩え、よくドラム割れねえなと思いながらステージを見ると、爆豪さんがこちらを見ていた。こっわ。

「おいてめえら!ボサクサしてんじゃねえよ!リハ始めんぞ!」
「爆豪煩えよ」
「煩えのはお前らだ!」

 声もデカいし地獄耳だしで爆豪と遠距離でコミュニケーションを取るのには困らないなあと感心をした。全く憧れないが、例えば災害現場などで生かせるのではないだろうか。今度提言してみよう。

 初めてのリハはスムーズに進んだ。演出隊に限って言えば計画通りの事が出来たし、全てを通してやっても観客の安全性も保証される作りである事が証明できた。

「結構良いんじゃない!?」
「凄い!本番が楽しみ!」

 なんて三奈ちゃんと透ちゃんがはしゃぎ、皆がそれに釣られて既にお祭り騒ぎになっている。リハだけに本番さながらの熱気が溢れる。あれだけのパフォーマンスをしておいて騒げる元気があるのが1-Aの凄い所だよね。私なら体力はあっても精神的に元気出ないかな。
 そんな事を考えていたらいつの間にか爆豪が隣にいた。え、何?何?

「ちゃんと明日の朝練出来るんだろうな」

 朝練……何故今?と思ったが、なるほど私の体力の事かと納得した。私は個性を使いすぎると反動で疲れてしまう。貧血のような症状になるのだ。それを初体験したのは合宿の時だったが、もしかしたら爆豪もそれを見ていたのかもしれない。こいつ、本当に私の事をよく見てるな、と思った。

「朝練?一緒にやってるのか?」
「お前には関係ねえだろ半分野郎」
「それもそうだな」

 勝手に入って来たくせにあっさりと引き下がる轟くん。本当にこの人は重要な事以外はたいして考えていないんだなあと口から出しそうになるのを引っ込める。理由はよく分からない。

「体調は大丈夫。セーブの仕方も覚えたし、毎回死にかけてちゃダメだからな」
「死にかけるのか?」
「お前には関係ねえだろ」
「いや、あるだろ」

 今度は引き下がらなかった轟くん。将来的に仕事で一緒になる可能性もあるからだろう。まあ轟くんならどんな現場であっても一人で何とかしそうだな。爆豪は……爆豪はどうだろう。攻撃特化だから、やはりサポートは要るのかもしれない。

「あ?今なんか余計な事考えてんだろ」
「余計な事?」
「顔にそう書いてあんだよ。個性まだ使っても大丈夫なんなら、すぐリハ2回目するぞ」

 そう言ってステージに戻る爆豪。少し寂しくも感じたが、自分の個性を存分に使える場所、2階へと戻ろうとする。私は主に2階で照明の隣に立って会場全体を操る予定だ。すると轟くんに呼び止められた。

「お前ら面白いな」
「面白い?どこが?」
「かけ合い?」
「失礼な」

 面白いなんて初めて言われたが、まあ切島くんなどの口ぶりからしてネタにされているのは確かで。轟くんのこれはまだ優しい物のように感じる。

「あと、死にかけるって何だ?」
「個性の反動だね。使いすぎるとフラフラになる」
「なるほど……また今度個性について教えてくれ」
「分かった」

 そう言って2階に行くためにステージ控えへと向かった。そこから梯子で上がるのである。……適当な板でも置いて私専用エレベーターでも作ろうかな。

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