第33話 中学の頃の私

「おい、変なこと言われなかったか」
「言われたよ」
「言われたんかい」

 今日は爆豪に呼び出され、彼の部屋にやって来た。私の部屋ばかり私物化されて悔しいから私のアイスティーのペットボトルも持ってきた。こういうのがいかんのだろうが、別にやましい事は無いし既に話題になっているのなら止められないから気にしないことにする。中学での経験が生きている。

「何言われたんだよ」
「爆豪とはどうなんだって」
「はあ?どいつだ、ぶっ潰す」
「やだ、うちの大事な演出隊から欠員を出そうとすんなよ」
「大事な演出隊ィ?」
「そら大事だろ!」

 爆豪はすぐに怒り出す。電子ケトルよりも早くに沸くことが出来るのではないだろうか。この部屋は近くに人がいるのだから、なるべく大人しくしておく方がいい。

「爆豪はさ、他人からの好奇の目にどう対応してたんだ?」
「あ?」

 私は中学生の頃は周りからの目に対して壁を作っていた。噂の内容と容姿も相まって、寄って来たのは舎弟となる人たちだけだった。噂話に自分から油を注ぐ事はしていない為そこは良かったが、交友関係の事を考えると微妙だった。対して爆豪はきっと違うのだろう、と思いこの質問をしてみた。今の状態をどう対処すれば良いかの参考にもしたい。

「別に、気にしねえ」
「…とは」
「周りの目なんか気にしたって意味ねえだろ。俺は俺の信念を持って生きときゃ良いんだよ」
「なるほど、そう振舞えば良いんだね」
「ケッ」

 これだけ怖い人だから色々言われて来たのは確実だ。そして彼が人の目を気にしないはずはない。きっと、気にしないよう振る舞っているだけなのだろう。なんとなくそう思うのだ。そしてこの「ケッ」は肯定だろう。私もよく分かるようになってきたものだ。

「で、話を戻すぞ。何て答えたんだ」
「え?」
「ばっくごうとはどうなんだってやつだよ!」
「ばっくごうさんとですか?」

 自分の名前を噛む程動揺していると言うことだろうか。可愛らしいな、と思いつつも顔を見たら鬼の形相な為、その考えを頭から消す。

「普通だよって答えておいた」
「おう、そうか」
「で、そう言えば轟くんに元ヤン扱いされたな」
「は?何だあの半分野郎」

 私が元ヤンかは分からない所ではある。自分としては違う気でいるのだが、外からの扱いは正にそれだった。自分の視点からだけでは判断できないような気もするが、元ヤンと自称するのは駄目な気がする。

「爆豪はさ、中学の頃の私を知ってるって言ってただろ」
「おう」
「何で知ってんの?」
「あー…」

 すると爆豪は頭をポリポリと掻いた。それを見ながら、そう言えばこの人は中々の爆発ヘアーだな、と思ったりした。

「中学の時寄って来てた連れがお前んこと知ってて、それで話は聞いてた。で、雄英の下見に来た時に見かけた。その程度だ」
「私そんな有名人だったんだ」

 そもそも私は目の前で虐げられていた人を助けたくて力を使っていたわけで。それで他校まで名前が広がっていたとは知らなかった。私自身は大したことは無いが、恐らく噂話に尾がついていたのだろう。そうでなければ噂話として拡散されてても面白くはない。

「でも、爆豪はそんな私も肯定してくれるんだよな」

 きっと今のクラスメイト達も受け入れてくれる。現に演出隊の皆さんは受け入れてくれた。でもそれはその後の私と関わって来たからだ。爆豪は全く関わっていなかった状態から私を気にかけてくれていた為、それらとは違うだろう。

「私、爆豪が仮免受かったら話がある」
「仮免……」
「そう。確か爆豪も何か言いかけてたよな。仮免受かったら腹割って話そうぜ」

 それに爆豪は「おう」とだけ短く答えた。その様子を見てから部屋を後にし、自室へと帰った。そういてば爆豪の部屋に行くのは久々だったな、と思った。

 私は将来の夢が出来た。それはプロヒーローとして活躍する爆豪を支える事だ。それこそが、私を受け入れ私の才能に期待してくれている彼への最大の恩返しだと思ったからだ。早速ノートを開き、どの様なサポートが出来るかを羅列してそれをする為に必要なスキルも書き加える。ノートは大分ページが埋まってきた。

[ 35/39 ]

[] / []
[目次]
[しおりを挟む]




top
×
- ナノ -