第30話 戦闘スタイルは
毎日トレーニングをしていたら体に変化が現れた。とても軽いのだ。ほとんど毎日爆豪の動きを見ているからだろうか。より軽い身のこなしで立ち回ることが出来ているように感じる。
爆豪の動きは大振りに見えて実は無駄が無かったりする。予備動作を小さくすることで敵を出し抜くこともできる上に体力温存にも繋がる。どう動けばより効率的に力を込めることができるのか、それをよく分かっているのだ。
「最近良いじゃねえか」
それは爆豪もお墨付きのようで、朝の走り込みの最中にお褒めの言葉を頂いた。彼がまさか対戦相手でもない人を見て、その上褒めてくるなんて全く予想していなかった。例え本人の中で感心していたとしても、それをわざわざ自分から切り出して伝えてくるとも思っていなかったのだ。
「爆豪を見てると色々学びになるからな」
「あれ俺の動きだったのか…」
「いや、流石に真似は出来ないから…イメージ程度」
「ふん、まあまあだな」
「急に評価厳しくなるな」
とはいえ褒められたことは純粋に嬉しい。これからの励みになる。彼のレベルには達しないが、それでも私なりに成長出来ているのであればひとまず良い。
戦闘スタイルについては常に考えている。せっかく体づくりをしているのだから、やはりパワー勝負もしたい。元々殴るのはスカッとして好きな為、これを上手く活用できるようにするのが目標だ。実戦でも、あの試験の時のようにメリケンサックでも作って殴れるようになりたい。
殴るというのはそもそも難しいものだ。予備動作が大きくなる為に相手を上回るパワーがなければ余裕で防がれてしまう。これの対処策は予備動作を小さくする技術とパワーだ。
私は野良試合で力をつけていたが、真面目に戦いを勉強して来た人たちに勝つことはできない。こういった人たちに対抗するべく特訓をしたのだ。
とはいえ爆豪に認められた以上、今度は次のステップに進んでも良いのではないだろうか、と考えている。今度は個性と合わせて活用することだ。
私の個性は正直何でもできる。何もない場から新たな物を生み出すことこそ出来ないが、そもそも何もない場など無い。立つことが出来るのであれば地面はある。それだけで十分なのだ。
「とは言え…」
私はまた部屋で例のノートを開いた。「壁!ジャンプ台!物作る!飛ばす!拘束、空を飛ぶ、救助は得意」この中で一番攻撃に使えそうな物は何であろうか。
戦うにおいて、今まで懸念し克服しようとしてきたのは予備動作だ。これを抑えるように努力した。恐らく少しは成功している。
しかし最高のセンスを持ち合わせていない限り、どうやっても無理なことはある。で、あれば。
「自分の身を守りながら、遠距離で物ぶつけたり壁作ったりして、隙をついて拘束して、殴る…」
私に似合っているのは殴ることであろう。中学の時だって蹴ることはあまりしなかった。基本殴っていた。なぜならその方が相手を攻撃したという実感があるから。今でも手にはその時の衝撃が残っている。
つまり、期末試験の時にやったことを今ならもっと上手に出来るであろう、という魂胆だ。それをノートに書いて収める。ベッドで横になりスマホを弄り始めた途端、ドアがバンバンと音を立てた。誰なのかは分かったかすんなりとドアを開けた。
「いつも思うけど、もうちょっとドアに優しくしろよ」
「あ?良いだろ別に」
「可哀想だろうが」
「あいつが雑魚なのが悪いんだよ」
「ドアをあいつ呼ばわりですか」
私の部屋を守ってくれているドアが可哀想だ。あんまりだ。
大体爆豪が部屋に来る目的は分からない。暇だから突然来てみた、という感じで部屋に居座る。そしてまるで部屋の主人かのように振る舞うが、この部屋は私のものだ。
「何の用?」
「何もねえよ」
「あそ」
やはり今日も何もないらしい。何故だか平日は毎日この顔を何度も見ている気がする。入学当初はとても苦手だったのに、今はこの悪い目つきにも慣れてきた。目つきに関しては私も言えたものではないと言う自覚はあるが、こいつ程ではない。
「おい」
「ん?」
話しかけてくるのは珍しい。用でもあったのかな、と思い耳を傾ける。
「仮免試験終わったら…」
「終わったら…?」
「…何でもねえ、帰る」
「何だそれ!」
爆豪は気になる言葉だけを残してズカズカと部屋から出て行った。仮免試験が終わったら何があるの?何があるんですか爆豪さん!一応ラインで聞いてみたが、それは既読になっただけで返事は来なかった。感じ悪。
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