第31話 良いお母さん
同級生がとんでもない組織を相手に戦った、なんていうのはニュースを見ただけでは気付けなくて、談話室で皆から教えてもらった。なんか遠い存在になってしまったなあ、とぼーっと考えたけど、帰って来た皆と会ったらいつも通りだった。
それと同時に、プロヒーローになったら本当にボロボロになるまで戦わなければならない場面が出てくるんだな、というのをまた新たに実感させられたのだった。
また、ニュースではプロヒーローの殉職も伝えられていた。やっぱ死ぬんだよな、ヒーローって。だって悪意を煮て煮まくってようやく社会に出た敵と戦わなきゃいけないんだもんな。ボロボロどころではないよなあ、とも思った。こちらは実感としてはイマイチだ。
一方、仮免講習会にせっせと出席している爆豪なのだが。部屋に勝手に入って来た彼は、普段は講習の内容は話さないのに、今回は話してくれた。
「ガキの相手ぇ?」
「ああ」
「爆豪がんな事出来るわけねーじゃん」
「うるせぇ!立派にやり遂げたわ!」
どうやら言うことを聞かない小学生クラスを矯正したらしい。皆で個性を使って言うことを聞かせる様にしたようだ。勿論方法は、小学生が楽しくなる様なもの。
「想像できんなぁ…」
「はっ、楽勝だったし」
「絶対最初弄られてたけど案外良いやつじゃんって思われたやつでしょ」
「んなわけねえだろ!初っ端から屈服させたわ」
いちいち煩い反応をするこの人は置いておいて。恐らく何か考えることがあったからこそ私に話して消化したかったのだろう。あと、承認欲求。
「じゃあ爆豪は良いお父さんになれるのかもね」
「あ?」
「子供が間違った道には進まない様にするのが産んじまった親の勤めでしょ。まあ間違った道を歩く爆豪さんにはやっぱ無理かもね」
「は!?余裕だわ!」
爆豪は何だかんだ良いお父さんになりそうだ。ちゃんと慈しみの心を子供に抱くことが出来たら、だが。
「何だよ良いお父さんとか言ってんじゃねえよ」
「え?」
「クソ何でもねえよ!帰る!」
「おー帰れ帰れ」
騒がしい奴が帰って行って部屋がシーンと静まる。例え煩くしても周りに誰もいないから迷惑をかけない、というのが私の部屋の位置のメリットだろう。寂しいが、一人なら慣れている。
爆豪には良いお父さんになると言ったが、私はどうなのだろうか。私を大切にしてくれる両親の元に産まれたから、きっと私が育てても私みたいな良い子に育つのだろう。つまり良いお母さんになれる。人生の失敗から、ちゃんと友達は作るように言い聞かせよう、とまだ存在せぬ我が子に誓った。
数日後、HRで文化祭の開催が知らされた。そしてクラスの出し物を決めなければならないらしい。決定は時間内に出来ず、寮に持ち帰る事となった。
ふてくされた爆豪は寝てしまったしインターンに行った人たちは補講で参加出来ないが、私はこの話し合いにちゃんと参加した。文化祭と言えばこれだろ!と思い提案したお化け屋敷はありきたりすぎて段々と流されて行った。悲しい。
結局ダンスライブパフォーマンス?みたいなのに決定し、その日は終わった。
「響香、今度楽器見せて」
爆豪としか部屋を行き来していない私は意を決してそんな提案をする。恥ずかしい。こういうのは慣れてない。やはり爆豪くらいぐいぐい引っ張ってくれないと人付き合いは難しい。
「あ、今から来る?全部置いてるし」
「まじ?」
緊張したもののその提案はあっさり受け入れられ、何なら「そう言えばなぜか来たことなかったよね」とまで言われてしまった。人を誘うとか基本的にした事ないんですよ。
響香の部屋は確かに楽器で溢れていた。色々触らせて貰ったりクラスのどうでも良い話をしたり音楽の話をしたりした。楽器を初見で使いこなす才能なんか無く、ギターは指が切れそうになるしキーボードやドラムは何が何だか分からなかった。
「これ全部出来るの?」
「一応ね」
「凄…私には無理だ」
「そんな事ないって、練習したら何とかなるよ」
確かに、ギターを弾ける!なんてなったらかっこいい。特に重低音を響かせるベースなんかは私の好みだ。なるべく目立たず、でもしっかりと支える。縁の下の力持ちって感じがしてとてもかっこいい。
「練習しないとなあ」
「じゃあ、ちょくちょくやる?」
「良いの?」
「うん。これから文化祭で忙しくなると思うけど、終わったら色々またやろう。教えるよ」
「ほんと!?ありがとう!」
練習をさせてくれる事よりも誘ってくれる事の方が嬉しい。やはり友達はちゃんと作るべきだ。子供にはそう言い聞かせ続けよう。敢えて選ぶ一匹狼は良いが、過去の私のように友達が出来ない人間にはなってはいけない。そう強く思った。
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