第19話 林間合宿後編

「泡瀬くんは八百万さんをお願い。ここは私が食い止める。私は弱いから守りながら戦うなんて器用なことはできねえし」
「そんなっ」
「八百万さんは私を庇って怪我をした。なら今度は私が彼女の為に身を削る番だ。彼女の怪我は早めに何とかした方が良い」

 本当に私がヒーローを目指しているのであれば。この程度の敵くらい抑えられないといけない。自分に出来ることを考えねばならない。

「私なら大丈夫です。手伝わせてください」
「八百万さん!」

 八百万さんが目を開ける。絶対に彼女は施設に戻った方が良い。ただ、ここで離れてボロボロの彼女と彼女を抱えた泡瀬くんがもっとちゃんと物事を考えられる敵に出会ったほうがまずいだろう。それに、今は説得する時間もなさそうだ。
 脳無が最後の壁を破ってきたと同時に辺りの木を操って地面に叩きつける。そのまま地面に飲み込ませる。ちなみにこれは何気に新技だ。それでも脳無はすぐに地面から出て来る。大丈夫?脳味噌傷ついてない?

 すると脳無は突然複数の腕を収め「ネホヒャン!」と言いながら真後ろに進んだ。なぜ去っていく…?私との戦闘を中断させるような知恵があるとも思えない。ということは…。

「爆豪…」
「泡瀬さん…個性でこれを奴に!」

 八百万さんが個性で作ったのは謎の機械だ。これが発信器であれば私の予想は当たることになるだろう。

「抑えとっから、その間に!」
「分かんねえけど分かった!」

 一応個性で地面を変形させ一瞬脳無の動きを止める。その隙に泡瀬くんが発信器を取り付けた。なるほど、今使うべきというレベルで最適な個性をお持ちだ。
 脳無が去って行ったのを確認して、適当な木と葉と土を使って担架を作る。それっぽい形にしているだけだ。

「ごめんね、八百万さんが作るのより寝心地は良くないと思うけど」
「すみません…」
「謝らないで。ゆっくり休んで。ナイス判断だったよ。後のことはプロに任せよう」

 と、冷静なことを言ってみたが頭の中は全然冷静ではない。爆豪は大丈夫なのか?敵の狙いは爆豪…というのは、何をするのが狙いなんだ?殺すこと?それとも別のこと?何の材料も無い状態から推理することなど私の平凡な頭ではできない。
 とにかく、今は八百万さんを無事に施設へ届けなければならない。泡瀬くんと一緒に担架を持って走る。私が前を走って、なるべく走りやすくなるように地面を整地しながら進む。

 施設に着いた頃には全てが終わっていた。救急車に八百万さんを乗せて辺りを見渡しても爆豪の姿は見えない。後にほとんどが重軽傷を負い、爆豪は連れ去られたことが説明された。


 クラスの動ける面々で入院組の見舞いをすることになった。緑谷くんの病室に行くと切島くんが話し始めた。どうやら八百万さんが発信器を敵に取り付けたことを知り、その受信デバイスを持って爆豪を助けに行くらしい。皆がそれを止める。そりゃそうだ、私情で事件に介入して良いはずがない。…でも。もしかしたら彼とは気が合うのかもしれない。
 すると病室のドアが開き、先生が入って来た。そこで、次は響香や透ちゃんの病室へと向かう。

「なあ、空間」

 歩いていると切島くんに呼び止められた。その時点で全員が要件を察したと思う。けれど、一体なぜ私を?そう思いつつ、自販機横のベンチで話すことを提案した。

「空間、昨日いただろ」

 びくりとした。そう、私は昨日病院を訪れていたのだ。

「受信デバイスもらう為だろ」

 そこも当たりだった。彼は名前の通り鋭いところがあるようだ。

「あのとき八百万さんと一緒にいたから、発信器を取り付けたことも分かっていた。本人は発信器だなんて言ってくれなかったけど」

 私はあれを発信器だと確信し、確認も兼ねて本人に受信デバイスを作ってもらうよう提案しようとしていた。彼女はそれを拒むと思われたが、それでも私に出来ることはそれしか浮かばなかったのだ。

「切島くんがあんなこと言い出してめちゃびびったわ。おんなじこと考える奴がいるんだなって」
「居場所が分かるなんて話聞いたら仕方ねえよな。ダチは助けたいし」

 切島くんも、本当にヒーローに向いている人なんだな、と思った。目の前の人を助けたくて助けたくて仕方のない人だ。今回のこの行動からしてあまり良い策だとは思えない為、きっと心だけで行動してしまっているのだろう。それでも私には断る理由が無かった。そもそも一人でも決行するつもりだったし。

「でも何で私を誘ってくれたの?昨日いたから?」
「それもあるけどよ」

 ――空間って爆豪と仲良いじゃん。彼は確実にそう言った。彼の目にはそう映っているのだろうか。

「合宿行く前に皆で買い物行こうって話あっただろ。あの日家に帰ってからもう一回爆豪を誘ってみたんだわ。そしたら、空間と会うから無理って来てさ」
「は?」

 爆豪が、そんな話をしていたのか。全く想像が出来ない。誰にも言わず勝手にこそこそしていた私が急に小さく思えた。そもそも話す相手もいないわけだが。

「多分あいつ喜ぶぞ。そこに空間の助けたいって気持ちがあったら十分なんじゃねえの?」

 そういうものなのだろうか。爆豪が喜ぶかどうかなんて分からない。助けに行ったとして会えるとも限らないし、会ったら会ったでプライドの高い彼のことだから嫌がるかもしれない。しかし、そんなことは関係がないことだ。

「私は助けたい。今度こそ行動したい。だから、私も行かせてくれ」

 私が助けたいと思うのだから、それだけで十分なのだ。

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