第18話 林間合宿中編
この合宿では個性の限界突破をさせられるらしい。パワーなり範囲なりを強化するといったところだろう。
「空間、お前はより広範囲を操作できるようにしなければならない。だから、これを使う」
そう言って相澤先生が取り出したのはただの札だった。
「これを木に貼りつけて、これを剥がすのを繰り返せ。距離はどんどん遠くしろ」
「分かりました」
無理矢理個性を使って無理無理上限を引き上げるのか。ついでに個性をたくさん使うから昨日初めて実感した時間的限界もより引き上げることができそうだ。それにしても同じことを繰り返すのはきついし、飽きる。外でやるのだから余計にきつい。熱中症になるよ、これ。
待ちに待った夕食の時間、頭をフラフラにしながら皆の元に戻った。どうやら自炊をさせられるらしい。役割分担で私は野菜を切る係になった。
私は包丁を握ったことはない。学校の調理実習では常に皿を洗っていたし、そもそも私に調理をさせたがる人はいなかった。包丁を握らせるなど持っての他だった。
というわけで、高校1年にして包丁の握り方も知らない。お茶を飲んで心を落ち着ける。周りのを見ながら学習しようとするが、あんな危険な物をなぜ皆扱えているのだろうか。特に爆豪は手際が良い。チート野郎め。
「颯?切らないの?」
響香にそう言われる。そうだよね、切らないと皆の迷惑になるよね。皆のカレーからジャガイモがなくなることを想像する。
「包丁握ったことがなくて…」
「めっちゃお嬢様みたいなこと言うじゃん」
「昔から不器用でさ…」
「じゃあ個性使ったら良いんじゃない?」
個性!そうか、私の個性ならジャガイモも一瞬でペーストにでもできる。とりあえず4分の1にしたら良いのだろうか。頭痛も治まってきたし、綺麗に切れたジャガイモを想像する。するとジャガイモは綺麗に4つに割れた。
「私一生涯包丁握らんわ…」
残りのジャガイモも全て一瞬で切った。日常に使えるめちゃくちゃ便利な個性だ。爆豪がこっちを見ていたから顔を向けたら、逸らされた。理由はよく分からないが、別にわざわざ見つめ合う必要もないから響香が玉ねぎを切るのを手伝った。
3日目、今日の夜に肝試しをするらしい。私は自覚しているレベルでびびりだ。お陰でホラー映画も観ることができない。既に逃げ出したい。そう思いながらもくじを引くと私は八百万さんと一緒になった。私めちゃくちゃびびりだから宜しくね、と言ったら「私が守りますわ!」って言われた最高。
しかし、肝試しルートを進んでいくとB組による様々な仕掛けがあり、その度に「んだコラ!!」と叫んでしまった。必死に隠そうとしてきた癖にたったこれだけのことで、情けない。何よりも八百万さんに品のない言葉を聞かせることが申し訳なくなっていた。
「あのね、実は私昔から口が悪くて…それで余裕がなくなるとつい…」
「だ、大丈夫ですわ。そういうことは誰にだってありますもの。それより…」
そう八百万さんが言いかけた瞬間、誰かが叫びながらやって来た。
「八百万!!空間!!」
あれは確かB組の人だ。見覚えはあるが、個性も名前も覚えていない。妙に焦ったような態度だ。
「泡瀬さん、どうされたのですか?」
「恐らく敵が現れた。毒ガスが充満している。早く施設に戻った方がいい!」
敵…?毒ガス…?状況理解が追いつかなかった。
「ではこちらをお使いください。他のB組の方にも配りますわ。ぜひ空間さんもご同行ください!」
「案内するぜ!」
とりあえず頷いてガスマスクをぽこぽこ出す八百万さんと泡瀬くん?について行く。私もガスマスクを貰い、装着する。そしてA組を脅かす為に潜んでいたB組の人たちの待機位置を回る。
そうしている内に、マンダレイのテレパスが脳内に届いた。
『A組B組総員、戦闘を許可する!』
『敵の狙いの一つ判明!生徒の「かっちゃん」!』
足が止まった。爆豪?爆豪が狙われているのか?なぜ…?爆豪を助けに行きたい。でもどこにいる?そもそも私より爆豪の方が強いんだぞ?身の安全の確保の方が先決…
「空間さん!後ろ!」
「え…」
後ろを見ると何かがいた。その何かは人の形をしているが脳が丸出しだった。腕が複数あり、それぞれから刃物が伸びている。それをしっかり認識できたとき、その内の一つが迫って来た。
八百万さんを抱き寄せ個性で刃を弾く。泡瀬くんは少し後ろにいたから大丈夫そうだった。どうやら私が弾けたということはこの刃は人体ではないという認定をしているようである。そうしている間に拳が頭上から落ちて来たが、今度は八百万さんが私を突き飛ばし頭からそれを受けてしまった。
「八百万さん!」
「大丈夫か!!」
すぐさま泡瀬くんが彼女を回収してくれる。どうやら意識はあるようだ。
「何なんだよこいつ…」
こいつ。こいつは恐らく脳無だ。USJの時にオールマイトと戦ったやつだ。
「多分こいつはめちゃくちゃ力が強い奴。敵だよ」
続いて襲ってくる為、私たちと脳無の間に分厚い壁を作る。後退しながらも背後に壁を作り続ける。後ろでは壁を崩す音がしている。
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