第20話 神野へ

 その日の夜、病院前に行った。伊達眼鏡はつけて来なかった。私が着いたときには切島くんと轟くんがいた。

「眼鏡無いんだな。コンタクトか?」
「伊達眼鏡だったんだ。視力は両目1だよ」

 私はある意味中学の頃の自分から逃げる為に姿を変えようとしたのだろう。だからこそ、今回は自分の変化を試す為に伊達眼鏡はつけなかったのだ。
 少しすると八百万さんと緑谷くんが来た。そして飯田くんも来て、何やら熱く語り始めた。彼は私たちを止めようとしている。でもそれはただルールを破るクラスメイトを止めるというものではなさそうだ。緑谷くんと轟くんに言っているということはヒーロー殺しの件と何か関連があったりするのだろうか。すると飯田くんが緑谷くんを殴ったりしたが止めても行くのであれば自分も連れて行けと言い出し、結局6人で行くことになった。

 新幹線に乗ること2時間。長野から八百万さんの受信デバイスが場所を示す神奈川までの道のりは長いようであっという間だった。隣に座っていた飯田くんはずっとむすっとしていた。若いはずのに若くない顔をしている。
 神野区はまあまあ賑わった街だ。夜の繁華街は怖そうな人間が多くて嫌になる。八百万さんの提案によりドンキで仮装グッズを購入した。大人っぽくなるといえば…スーツだろう!ということでスーツらしき仮装に身を包んだ。顔割れも怖かったからサングラスもかけることにした。

「お?雄英じゃん!」

 その言葉に反応する。街頭テレビジョンは記者会見の様子を映し出していた。記者はいちいち学校を悪者扱いする。当然だ。生徒が敵の襲撃に遭い、内一人は行方不明となったのだ。そもそも敵から一般市民を守るヒーローとしての仕事も果たせていない。そして記者はとうとう爆豪の態度にまで文句を言い始めた。

「ふざけんなよ…」

 ふとそんな言葉が口から溢れていた。爆豪のことを知りもしないくせに適当なこと言いやがって。しかしその分、その後の相澤先生の言葉にこの先生はやはり生徒をよく見ているのだな、と改めて気付かさせられた。

 発信器の示す場所へと来た。そこは廃倉庫のような佇まいで、ここへ来たことを少し後悔した。しかし、ヒーローになったらこういった場所に突撃することも仕事になるのであろうか。敵には良い加減にしてもらいたいものだ。
 切島くんが探索用にアマゾンで買ったという暗視鏡を取り出す。これで中の様子を確認しようということらしい。用意周到だ。轟くんが緑谷くんを、飯田くんが切島くんを担いで上の人が暗視鏡で確認することとなった。

「私だったら足場作れるのに」
「まあ、ここはお任せしましょう」

 確かに何やら楽しそうだな、とも思う。そんなに緊張感のないことは言えないが。そんなことを考えていたら突然切島くんが「うおっ!」と声を上げる。緑谷くんによると廃倉庫の中には脳無が複数いるのを確認できたらしい。

「ここは…脳無格納庫…?」

 確かに私たちが発信器を取り付けたのは脳無だ。あいつは発信器を付けられつつも呑気にここにいるということなのか。すると、突然衝撃に襲われた。脳無が出て来たのか!?と思い目を向けると、まず見えたのはMt.レディだ。ヒーローが来たのだ。
 ともなると、私たちの出番は無い。私たちはただただ爆豪を助けたいという思いで動いた。だが、ヒーローが来た以上、下手に動くとより迷惑をかける可能性の方が高い。私たちはヒーローになる学習をしている途中の学生でしかないのだから。すると、何かが現れた。

 空気だけで伝わるものがある。何も見ていないはずなのに、急に全身が支配される。名状し難い感覚である。これが、恐怖なのだろうか。今まで味わってきたものともまた違う。

 そして、ずっと聞きたかった声を聞くことができた。

「んっじゃこりゃあ!」

 爆豪の声だ。これは、爆豪の声だ。無事だったのか。でも、彼は恐らくこの恐怖の対象と対峙しているのだろう。本当に無事なのだろうか。
 助け出す為に動ことができなかった。どうやっても策が浮かばないからだ。でも、爆豪は、爆豪は…。
 きっと、私の個性があれば助けることができる。一瞬でも塀の向こうを見ることができたら、あとは大体何でも好きに操れる。思ったよりやりすぎた、というようなことはあるのだろうか。今まで力の暴走などしたことはない。でも今はそれをしてくれたらと思う。
 すると、八百万さんに腕を掴まれた。はっと彼女を見るとただ震えながら俯いている。その様子を見て頭がすっと空になった。

 すると再び大きな音がした。

「全て返してもらうぞオール・フォー・ワン!」
「また僕を殺すかオールマイト」

 オールマイトが来たのだ。No.1ヒーローのオールマイトが来たのだ。となると、この妙に怖い敵はオール・フォー・ワンと言うのか。そして一人称は僕なのか。

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