第17話 林間合宿前編

 夏休みに入り、林間合宿当日となった。バスに乗って合宿所まで連行されるわけだが。

「また隣かよ…」
「文句あんのかよ」

 USJに続いてまたしても爆豪が隣だった。というより、私が一人で座っていた所に彼が来たのだ。誰も隣に来てくれないことに少しショックを受けていたので正直嬉しい。

「あのさ、昨日合宿嫌過ぎて寝られなかったんだよね」
「意味分かんねえ、ちゃんと寝ろや」
「オカンみたいだな」
「誰がオカンだ」

 前に一緒に出掛けたとき、あの時に初めてまともに会話をした気がする。それ以来どうでも良いことを言っては「うるせえ」と言われる生活が続いていた。

「やべーよ空間、あんなどうでもいい話して爆豪キレさせてねえよ」
「お前の中で俺は何モンになっとんだ!」
「ほらーもー怖いー」
「空間猛獣使いか何か?」
「そうかもしれない」
「猛獣扱いしてんじゃねえよ人間だわ」

 爆豪はめちゃくちゃ気を使ってくれる。理由は前に聞いたがそれでもよく分からない。同じように個性で気にかけている緑谷くんには全く違った態度を取っていたというのに。あれは色々ありそうだし別物なのだろうか。

 しばらくするとバスが停車した。伸びをする為に出たが、えらく眺めの良い場所だった。やまびこ返ってくるかもしれないな。
 そう思っていたらプロヒーロー集団プシーキャッツのピクシーボブとマンダレイが現れた。どうやら宿泊施設は遥か先にあるらしい。で?と思っていたらピクシーボブの個性で崖から落とされる。こ、これは!この個性の使い方良いな!どのような使い方をされているのか教えてください!!

「私有地につき“個性”の使用は自由だよ!」

 と言われましても。まず受け身に失敗して肩が少し痛いのですが。手から着地するなんて馬鹿すぎる。
 個性の使用が可能であれば、少し前の地面を平らにしつつ走れば良いのだろうか。森だし足場悪そうだから、整備されたグラウンドをイメージして…。すると目の前にマジュウが現れた。え?生物…?生物は私操れないんだっけ…?人間以外で試したことない……怖い……と思っていたら我がクラスの特攻隊4人が飛び出してくれたお陰で道が開けた。

「さんきゅーな!」
「おめーの為じゃねえよ自分で何とかしろ!出来るだろ!」

 えっ私、爆豪から認められているの…?何故…?まだ個性も上手く扱えていないし。まじで分からん…。

 約8時間後。正直死にそうになっていた。前半は目の前で色んな人がギミック対処をしてくれていた為、ほとんどその後に続くだけで良かった。だから体力を温存できたのだが、後半になると満足に動ける人は少なくなっていた。だから今度は温存させてもらった体力を使わねば、と思い目の前に現れるギミックを土に還しつつ平らな道を作っていた。
 しかし2時間もすると使い物にならなくなった。キャパオーバーというものだ。頭が痛くなり、個性を発動できなくなったのだ。こうなるのは初めて知った。

「颯ちゃん!大丈夫!?」
「大丈夫、でもごめんしばらく何もできないや」
「気にしなくていいよ!一緒にゴールしよ!ついて来られる?」
「頑張る」

 お茶子ちゃんは優しい。こういう子が立派なヒーローになるんだろうなあ。自分のことで精一杯なはずなのに私も助けてくれる。そして、朦朧とした意識の中でなんとか宿泊施設に着けた。


 ご飯を食べ、風呂に入った。露天風呂で大変気持ちが良かったが、人と一緒に風呂に入るという経験は今までほとんど無かったから躊躇った。しかし入ってしまえばそんなものは無くなった。

「はあ…」

 風呂上り、宿泊施設外にあるベンチへ来ていた。定期的に一人になって物を考えたくなるのだ。

 私は高校に入って変わりたくて髪を染めるなどしていた。けれど、皆優しいから髪のことなんか気にしない。私は違う。リタッチをしない理由は今更しても無駄であるからなのだが、それでもやはり過去の自分を思い返す。
 雄英を目指してからかなりの月日が経ったし特に入学してからは濃い日々が続いたから、あの頃はとても昔のことのように感じる。けれど、あの頃の私は間違いなく私自身だ。今でも私の中にいる。
 結局私は何のために人を殴っていたのだろうか。人を助けたかったからなのか?本当にそうなのだろうか。人を助けたかったのではなく、先に人に悪さをした奴を許せなかっただけなのではないだろうか。

 どんどん悪い方向に考えてしまうのは悪い癖で、気分を変えるために部屋へ戻ることにした。部屋は大部屋で、それもまたそわそわする要因だった。部屋に行く途中爆豪とすれ違った。今話すと自分のネガティブな部分もぶつけてしまいそうだったから、無視してしまった。

「颯おかえり」
「ただいま」
「颯ちゃん!おいでおいで」

 部屋に入ると皆で円を作っていた。良いなあこのかんじ。そう思うと同時に、招かれたことが嬉しくもあった。

「今恋話してるんだけど」
「へ、へえ」
「颯ちゃんは好きな人いないの?」
「は」

 私が、恋?そ、そんなものとは無縁だ。いやいやないないない。

「いないよ」
「そっか〜」

 一瞬誰かの顔が過ったが、それはさっき会ったからだろうと思うことにした。ほら、一回お出かけしてしまったから他の奴よりは親しい…気もするし…?

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