第16話 爆豪のペース

 爆豪を誘った理由は、きちんと話してみたくなったからだ。彼は何故か私と関わりを持っている。謎ベンチで初めて話した時はわざわざあちらから話しかけてきたし、騎馬戦の時は入れてくれた。個性の話もしてくれた。どれも不快ではなかったのだが、それでも謎は残っていた。
 爆豪の第一印象は「怖い人」だし、それは今でも変わらない。だが、そんな怖い人の彼ならなぜ私のような目立ったことは何一つできていなかった存在を認識していたのだろうか。そこを知りたかった。

 だが、まさか昼食までご一緒するとは思ってもいなかった。知人と外食なんてしたことはないし、男なら尚更何を食べたいのかなんて分からない。駅前集合ということはその辺りで見つけるのだろうと思いグルメサイトで検索してみたが色々あって逆に分からない。
 11時に集合して何時まで一緒にいるのが正解なんだ?全てが分からない。中学の時は教室で「今からカラオケ行こう」という会話も聞いたし「マック行くぞ」もよく聞いた。どちらも全く縁が無かった為に何一つわからない。

 約束の日。昨晩はなかなか寝つけなかった。緊張が原因だ。自分から誘っておいて後悔している。爆豪が分からん。何なんだあいつ。何を考えとんだ。
 母さんにはクラスメイトと会う、と言った。そしたらめちゃくちゃ喜んでくれた。男と言うのは恥ずかしくて響香の名前を勝手に使った。ごめんね。

 約束の時間の10分前に着いた筈だが、彼は既にそこにいた。ベンチに座ってスマホをいじっている。

「ごめん、待たせた?」
「行くぞ」
「会話成り立ってねえな」

 よく分からないが爆豪について行けば良いのだろう。それにしても彼は女と外食をすることに慣れているのだろうか。いや、まさかこんな怖い人に限ってそんなことは無いだろう。いやでも顔は悪くないし…目怖いけど。
 入ったのはショッピングモールだ。確かにここであれば何でも食べることができる。フードコートで適当な席を選び、それぞれ店で買って黙々と食べた。なんだこの時間、修行か?周りはわいわいしている中、無言でうどんを啜る苦行なのか?

「付き合え」

 食べ終わりお盆と器を返却するとそう言われた。この人は言葉足らずだ。ただ、何をどう伝えるべきか悩んでいるからこそ時間がかかるのだろう。そうポジティブに捉えることにした。
 それにしても、私が誘ったのになぜ私に発言権を握らせないのだろうか。この男はかなりめんどくさい。恐らく私が聞きたいことを分かっているからこそ聞かせてくれないのだろう。めんどくさい。私だってもっと人と話すスキルを身につけていたら自分のペースに持っていった。中学3年間人とのまともなコミュニケーションを怠ったツケが回ってきた。

 付き合え、というのは買い物だった。合宿に必要な消耗品を買い揃えるためだ。私も虫除けスプレーと日焼け止めが欲しかった為丁度良かった。

「あとデカいバッグが欲しい」
「ん」

 中学の修学旅行以来遠出をした記憶がない為、旅行用の大きなバッグもあまり持っていなかった。折角だし新調しようと思い、爆豪のアドバイスも聞きながら探す。背中は蒸れるがやはりリュックが良いだろうという提案から探し、デザインも好みで大きさも申し分ないものを見つけた。時間は会ってから3時間が過ぎていた。

「ありがと!これでやっと合宿うきうきだわ」
「たかがリュックで気分変えてんじゃねえよガキか」
「いちいちつっかかるなよ」
「で、どうすんだ」

 ど、どうすんだ…?急に私に委ねるのか…?今日ずっと爆豪のペースだったのに?もしかしてこいつも人と出かけるのとか下手な人間なのか。

「と、とりあえず話せる場所に…」
「ん」

 承諾の返事は「ん」しか無いんか。内心そうつっこみながら、モール内のスタバに入った。チャイティーラテしか飲まんのよ私は。適当な席を見つけ座る。

「大体何で呼び出したのかは分かってんだよ」
「賢いんだね」
「とりあえず話しやがれ」
「よく身勝手って言われねえか?」

 そうは言ったものの正直会うことに精一杯で話す余裕もなかったのかもしれない。会ってすぐ「本題は何ですか」と言われても困っただろう。そんなにこの人を良い人に仕立て上げたくはないが。
 そしてまずは個性の話をした。爆豪は黙って聞いていてくれた。あと聞こうとしたことは何だろう。必死に思い出しながら言葉を続ける。

「何で、私に話しかけたんだ?」
「当時の喋り方が気持ち悪かったから」
「それだけ?なら逆に話しかけねえんじゃねえの?」
「…お前の個性に疑問はあった」
「……はい?」

 ぽかーんとしていたら爆豪が解説をしてくれた。

「演習の時、真面目にやってんのか分かんねえくらい活躍をしていなかったから逆に目立ってた」

 なるほど、と思った。皆はそれぞれの方法で活躍をしていた。しかし私は何もできていなかった。それが悪目立ちに繋がっていたのだろう。お恥ずかしい。

「で、そん中でも数少ない個性を使った場面場面に違和感があった。それを確かめたくて騎馬戦ではチームに入れた」
「違和感があった?」
「いちいち覚えてねえけどな」
「ふーん」

 疑問については解消できた。私の悪目立ちと彼の鋭さのお陰だったらしい。まだ理解できない部分もあるが。その後適当に談笑をして(ほとんどお互いスマホを弄っていた)17時に解散した。

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