第10話 空間操作

 学校が再開してヒーロー情報学の授業ではコードネームを考えることとなった。皆元気そうだし、相澤先生はすっかり包帯も取れていた。クラスメイトたちは個性豊かなコードネームを発表する。
 私は、私は何にしようか。わたしは個性が分からない。だから作りようがない。結局名字からそのまま「空間」にした。その日の放課後相澤先生に呼び出された。

 案内された部屋には校長がいた。やはり、あれだろうか。申請した個性と違うものを使ったからだろうか。これが除籍審問なのかもしれない。その覚悟はできていた。

「まず、空間は職業体験に行かせないことになった」

 職業体験。プロヒーローの事務所で1週間を過ごし、プロの仕事を体験するものだ。この処分は妥当だろう。そして除籍はいつになるのだろうか。

「そして本題だが、今からお前の個性について説明をする」

 …説明?

「説明ってどういうことですか?」
「お前の個性は接触操作ではない」

 接触操作ではない。何となく行き着いた答えを言い当てられたような気分になった。接触操作ではない。では一体何なのだ。なぜ私も知らない私の個性を知っているのだろうか。

「空間操作だ」

 空間操作…?既に頭がパンクしそうだ。夢であってほしい。あのジャングルジムを持ち上げた瞬間からずっと夢で、今もまだ夢の中にいるのだ。悪い夢だ。

「操っているのは物体ではなく、その物体がある空間そのものなのさ」

 校長の口からそう告げられる。だが、やはり意味が分からない。何から何まで分からない。私の頭の上には疑問符が大量に上がっているだろう。

「この個性はお前の親父…空間正行から遺伝したものだ」
「え」

 やはり。父さんは嘘をついていたのだ。個性が発現した時、私の個性を医者よりも先に説明してくれたのは父さんだった。でも一体、なぜ嘘をついていたのだろうか。もういっそ私の個性のことは今はどうでもいい。父さんのことが知りたい。

「なぜ、父の個性を知っているんですか」

 校長と相澤先生が目を見合わせてから相澤先生が口を開く。

「元雄英の生徒だからだ」
「ええ?」

 父さんが、雄英にいた?そんな話は全く聞いたことがない。地元の公立高校に大学進学を機に上京したと言っていた。

「空間正行は、自分の個性は物体操作だと認識した状態で入学した。そして2年生になったばかりの頃時に転校した。理由は個性」

 心臓の鼓動が頭の中で繰り返される。体が熱い。足の感覚がない。

「彼は自分の個性が物質操作ではなく空間操作だと知り、その個性の危うさからヒーローになる道を諦めた」

 父さんはヒーローになるのをやめた。この個性のせいで。それだけ危険だということなのか。なら、私は?

「空間操作という個性は非常に危険だ。その気になれば空間ごと変えられるんだ。世界の形も変えられる可能性を秘めている」

 そんな壮大な話をされても困るというものだ。そもそも何が何だか分かっていないというのに。ついつい顔が下がってしまう。目の前にある机の木目をじっと見ていた。

「空間正行のことは常に行政とヒーローが監視、保護をしていた。娘であり個性を継いでいる可能性のあるお前も同じくだ」
「そんな中、君自ら我が校を志望してくれた」

 つまり

「私を監視する為に合格させたということなんですか」

 頭がぼーっとしてきた。私はなんとかギリギリで合格を掴み取ったわけではなかったのか。ただただこの危険な個性をよりプロヒーローたちの元で監視させる為に、私は…。

「いや、監視目的だけではない。だったらそれまでの方法で十分だった。雄英というこの教育機関で個性について正しい知識を教え、正しく使わせることが必要だった」

 私が、私の個性を理解すること…。

「そして何よりも前提としてヒーローになる素質があると見込んだから合格させたんだ。そこを間違えるなよ」

 反射的に顔が上がった。今この人は何と言ったのだろうか。

「ヒーローとしてその危険で強力な個性をしっかりと身につけて、悪にその力を明け渡さなようにすることが、君がその個性を宿してからの使命なのさ」

 これが、私の使命。校長に言われた言葉を脳内で反復する。私は、この個性とは向き合って、教えてもらって、学んで、上手く使わなければならない。ん?ということは

「わたしは除籍じゃないんですか?」
「誰がそんなこと言った。除籍なんかにしたら教えられないだろう」

 ここ数日間で思い悩んでいたものがスッとどこかに落ちた。私の個性は空間操作。父さんから継いだ力。この力をヒーローとして活用すべく、学んでいかなければならない。今までの自分が偽物だったような感覚に陥るが、それはおかしなことではないだろう。

「まあつまり、中学までのお前の行いは把握している。正直ヒヤヒヤしていた。力は正しく使えよ」

 ……ヒッ

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