第9話 体育祭後編

 私の相手は三奈ちゃんだ。待機場でよろしくね!と言ってくる彼女はとてもかわいい。ただ私は、あなたとの戦いでまた実験をするのだ。

 勝負が始まると三奈ちゃんが早速間合いを詰めて溶解液を飛ばしてきた。どうなん?これって飛ばせたりするん?思いっきり液を場外へ飛ばすイメージをする。すると液は右に飛んでいった。

「まだまだいくよ…!」

 三奈ちゃんは続けて液を飛ばしてくる。あえて地面を溶かしてガタガタになった地面から破片を頂戴し、操作する。その隙に私が中学時代に得意技としていた右ストレートをお見舞いした。

 私の強みは周りが個性をあまり知らないところだ。正直私にも分からない。接触することで操れるのだと父さんから説明を受けていたのに、接触をしなくとも大丈夫とは一体何事なのだろうか。少なくとも戸籍に登録している個性とは全く違うものだと推測される。
 この個性は父さんから遺伝したものだと言われていた。私の個性は突然変異なのか、それとも父さんが個性について嘘をついているか。そうやって父さんを疑う自分も嫌だ。

 流石に逃げすぎると緑谷くん以外からも怪しく思われてしまうかもしれない、と思い、三奈ちゃんとの戦いの後は観客席へと行くことにした。私の姿を見ると響香が自分の隣の空席をポンポンと叩いた。

「やったじゃん。右ストレートかっこよかったよ」
「あ、ありがとう」

すると響香の奥からにょきっと梅雨ちゃんが生えた。

「でも、颯ちゃんの個性って接触操作じゃなかったのかしら」

 そうなんですよ。私もそう思っていたんですよ。

「ここ2週間で色々調べて実践してみてたんだ。そしたら触らなくても大丈夫なことがあるみたいで」
「ならチートじゃん!個性鍛えたら何でも操れるようになるかもね」

 何でも、何でもか…。そうだねと返事をして試合に集中するフリをする。今戦っているのは切島くんと切島くんに似た個性の人だ。私からしたら羨ましい、ただだだ真っ向から殴り合いをする試合だ。結局引き分けていたが。

 そして次は爆豪とお茶子ちゃんの試合らしい。爆豪が負けることはないだろう。ただ、お茶子ちゃんも良い個性を持っている。そして、それを理解してコントロールしている。彼女の強みはそこだと思う。ある意味私と似ている個性だと思うが、彼女と私の間には大きな差があるし、それは個性の理解が原因だろう。

「次ある意味最も不穏な組ね」
「ウチなんか見たくないなー」

 激闘だった。側から見れば爆豪が一方的にお茶子ちゃんを攻撃した試合だったが、お茶子ちゃんの策は確実に爆豪に効いていたようだ。爆豪が勝ったが、私はお茶子ちゃんをずっと見ていた。すごいなあ、あんな風に出来る様になりたいな。帰ってきた爆豪は早速茶化され、後ろの席にドカンと座って「どこがか弱ェんだよ」と呟いた。やはりお茶子ちゃんの策は効いていんだな。羨ましい。
 その次の緑谷くん対轟くんもまたかなり派手な試合になった。緑谷くんが轟くんを煽り、轟くんが炎を使うことで彼の勝利となった。緑谷くんは何をしたかったんだろうか。彼は心優しそうな人だから、きっと何か考えがあってのことだと思うが。

 とうとう2戦目が始まる。相手は鳥頭くん…常闇くんだ。彼とはUSJで共に戦った。彼はあの時よりもパワーアップしてしているだろうし、私もあの時より遥かにパワーアップしている。これをパワーアップと呼んで良いのかは分からんが。
 常闇くんの攻撃は激しい。休む間も無く、相手に隙も与えず繰り出される。こんなの打つ手はあるのだろうか。何の策も浮かばないまま押され続け、場外目掛けて吹っ飛ばされた。悔しい。私は全く出来ていない。出来ないのは出来ないで悔しい。
 場外へは出たくない!と思っていたら背中が打ちつけられ地面に落ちた。ああ、私は場外に出てしまったのだと思った。

「何だ、それは…」

 何だ?とは何だ?と思い目を開けると私は何故かフィールド内にいた。そして後ろを見ると壁がそびえ立っていた。何だ、これは…。
 それからのことはよく分からない。とにかく常闇くんに勝ってから考えよう、と思いあらゆるものを常闇くん目掛けて投げようと試みた。そうこうしていたら、気がついた時には場外に出ていた。

 リカバリーガールに手当てをしてもらった後、手洗いに籠りながら考える。一体なぜ、壁が現れたのか。考えても考えても意味が分からない。とうとう個性が怪しくなってきた。クラスの観客席に行くと質問攻めに遭ったが、全てに「あれは偶然」と答えておいた。
 早く帰って父さんから個性の話を聞かなければ、と思った。その日家に帰って父さんに聞いても「分からない」の一点張りだった。一体何だというのだ。

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