第11話 解説

 クラスメイトにとっては今日から職場体験だ。私は一人、教室で自分の席に座っていた。

 先生から話を聞いた日。家に帰ると幸い父さんはいて母さんはまだ帰宅していなかった。そして父さんに話があると告げる。本人も分かっているような顔をしている。それから全てを話してもらった。自分が個性を正しく認識することになった契機、その後の行動、そして私のこと。
 父さんは私に自分の個性が発現しないことを願っていた。けれど私はある日、目の前にあるティッシュを取ろうとして、触ることなくそれを手にしたそうだ。それを見た父さんは確信した。私には空間操作の個性が宿っていると。
 母さんはこのことを知らせていなかったらしい。自分の個性については雄英を辞める時にしか伝えなかったそうだ。それ以来も物質操作を名乗ってきた。ただ私が体育祭で個性を発動させた時にもう誤魔化せないと判断して、母さんにだけこっそり伝えたらしい。母さんは驚いたがすんなり受け入れてくれたという。
 私に接触操作だと偽った理由は、その方が個性を使う場面が限られるからだそうだ。私が接触操作だと思い込んでいれば、私は触ることでしか個性を発動させない。意図せずして力を暴走させることを防ごうという意思があったのだろう。

「私は、この個性で人を助けるヒーローになりたい。父さんが無いものにしようとしたこの個性を、世間に知らしめる。そして力を正しく使う重要性を説き続けたい」

 帰り道に考えたことだ。私は元々人のために力を使うためにヒーローを志した。だが、今は違う。ヒーローは力を使うことが許された役職なのではない。力を正しく使うことを強制される役職なのだということを知った。であれば、私はそのヒーロー像を目指すしかない。この危険だと言われる個性を、正しく使う為に。
 正直空間操作のどこが危険なのかいまいち分かっていない。それを言ったらどの個性も危険極まりない気がする。それに、恐れられる程の力を自分が秘めているとも思えなかった。

「僕はね、ただ怖くなったんだ。空間操作の個性は、使えばいくらでも汎用性があるから。だからヒーローの道から逃れ、今やただの人間だ」

 父はこの個性をよく理解しているのだろう。理解していない私にはイマイチ分からない。だが、これから知っていく。そして、それを受け入れる覚悟だ。

「颯も怖くなったら逃げて良いんだよ」
「私は逃げないよ。絶対に」

 私にはヒーローの素質がある。その言葉を信じているから。まだまだ未熟だが、きっとなんとかなると信じて努力するしかない。


 始業のチャイムが鳴り、相澤先生が現れる。この広い教室に2人というのも寂しいものだ。

「早速だが、空間の個性について詳しく解説をして、体育祭の映像を確認するぞ」
「はい」

 初めて知識欲というものが分かったかもしれない。今までは暇だから本を読み、そこで知識を得ていた。ただ今回だけは、自分から知りたいと強く思っている。

「空間操作とは、その名の通り空間を操作する個性だ。たとえばこの教室を範囲として個性を発動させると、机椅子なんかも全て思い通りに動かすことができる」
「え、そんなこと出来るんですか」
「ああ。そして、今までお前がやっていたのはもっと狭い範囲での発動だ。例えば入試のときのナイフを操るやつなんかは、ナイフとナイフの軌道上の空間を操作していたということになる」

 なるほど。つまり、私の手から的までの空間を操作して、ナイフを動かしていたということか。理屈は分かったが、実感は全くない。

「この個性の危険な点は、例えば地形そのものを変えることもできるという点にある。人命を容易に抹消する個性ではないが、お前は既に地形を変えようと思ったらいつでも苦労なく変えられる能力を持っているということだ」

 地形を変える。これでもよく分からないが、もし敵がそんな個性を有していたらと思うとゾッとする。

「個性についての説明はこんなもんだ。正直お前の親父さんが学校に残した情報しかこちらも持っていない」
「後のことは私が自分で見つけ出さなければならないということなんですね」
「そういうことだ」

 これからは個性を把握する実験を繰り返す必要があるらしい。まだ自分の力の限界範囲しか分かっていないのだから。

「そういえば、私前に個性の範囲を把握する為に羽根を飛ばしてみたことがあるんです。5mしか飛ばせなかったんですけど、どういうことなんでしょうか」
「その時目は開けていたか?」
「はい」

 今さっきこれ以上は分からないと言われたばかりなのに質問をしてしまった。相澤先生は考える素振りを見せる。

「恐らく、無意識に目で見える範囲に限定していたんだろうな。視力1.0は大体5m先をはっきりと認識できる程度だからな」
「なるほど…羽根をちゃんと見ていたからこそ、見えなくなるまでしか使わなかったということなんですね」
「勿論、まだ個性を使える範囲がその程度だということもあるだろうが」

 そういえば、目を閉じて飛ばしてみたら羽根が無くなったこともあった。見失っただけだと思っていたが、めちゃくちゃ遠くに飛ばしていた可能性もあるということか。

「じゃあ次に体育祭の映像を見るぞ」

 画面に表示されたのは第三種目で三奈ちゃんと戦っているであろう私。この映像、私しか映ってない。怖いんだけど。

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