第8話 体育祭前編

 厳重な警備の元、雄英体育祭は開催された。個性のことで頭がいっぱいで気がついたら第一種目の障害物競走が始まるときだった。逃げ出したい。せっかく個性を磨いたんだから見せつけてやりたい気持ちもあるのだが。

「空間さん、大丈夫?今日様子が変だよ」

 ゲートに向かって歩いているとき、偶然隣にいた緑谷くんに心配される。やはり今の私はおかしく見えるのか。これが初めての会話になるとは思わなかったよ。

「大丈夫。昨日緊張して寝られなくて」
「そっか。お互い頑張ろうね!」

 緑谷くんの表情が今はとても頼もしく見えた。彼なりにこの体育祭への思い入れがあるのだろう。いや、それが普通だ。
 彼は個性を上手くコントロール出来ていないように見える。まるで個性を手にしたてのようだ。もしかしたら彼は私と同じようなものなのかもしれない。あれだけのパワーを普段から使うことはないだろう。だからこそ個性を理解できる場が今まで無かったのだろうか。彼は私と似ているようで全く違う。

 競技が始まると人に押されて走っていた。前方で色々と騒ぎがあるが、気にせず走る。いざとなれば個性をちゃんと使えばいい。少し進むと入試の時にいたロボットが出てきた。しかしこれだけの人数がいたら派手にやらかしたい人たちがどうにかしてくれるだろうと予測し、ロボットの間を素早く走り抜ける。その予想は当たり、すぐに切り抜けることができた。
 第二関門はとにかく綱渡りを強いられるギミックだ。落ちそうになれば綱をなんとかしたらなんとかなりそうだ。綱渡りの才能でもあるのか、まっすぐ走ることを意識したら何とかなった。
 次に現れたのが地雷源。物騒すぎるだろ。ただ、この時点で先にゴールしている人が多くいたため、人が通った後を走れば普通にゴールできた。そして私は33位で予選を通過した。無茶をしなければ案外いけるもんだな。

 第二種目は騎馬戦。ゴールした順番に応じてポイントが割り振られるらしい。そんなん強い人と一緒にいた方が良いに決まってる。強い人は全部やってくれるのだから。さっきの障害物競走も実質強い人のお陰で勝ち進めたのだ。そう思い辺りを見回していたら、既にある程度チームができていた。まずい。焦りつつ目当ての人物を見つけた。

「爆豪入れて」
 
 爆豪の元には人がわんさかいた。そりゃ爆豪と組めば安泰だと誰でも考えるだろう。私もその内の一人だ。爆豪は私をじっと見つめ手でこっち来い、とジェスチャーした。それを見て私はほっとしたのだ。これで次に進めるな。

 騎馬戦は爆豪がよく活躍した。瀬呂くんもサポートとしてよくやっていたし、切島くんは馬として適任だった。私は試しに地面に落ちている石を操ってみたらどさくさに紛れてハチマキを1本取ってみた。これはこれで良いのか?他にも爆豪の指示に従ってあれこれやることができた。なるほど、センスある人の戦い方は凄いな。そして私たちは2位で最終種目へと駒を進めた。

 最終種目はトーナメント形式のバトルで昼休憩の後レクリエーションが終わってから始まるらしい。それまでどうしても一人になりたくて、またしても人が少なそうな所を見つけ出した。トーナメント相手は誰であっても構わない。ただ今度こそきちんと個性を使わなければならない時なのだ。

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