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▼ /→関興と夕焼け空

ピクニックから蜀宮に戻ると、もう太陽が沈もうとしていた。

赤く光る夕陽が眩しい。

結局食べて、寝て、そしてピクニックが終わってしまった。

張苞に促されそのまま眠りについてしまった私は、帰る直前まで寝かされていた。
起きたら左横には張苞の端正な寝顔、右横には関興の美形な寝顔。
真上には銀ちゃんと星彩が可愛い顔で笑っていた。

こんなに目覚めのよい寝起きはかつてあっただろうか。
こんな経験が出来る私は幸福者だと思う。
トリップしてきて、今が一番良かった…と思える時間なのかも知れない。





「萌の寝顔可愛いかったね〜!」



「ええ、そうね」



私のだらしない寝顔を思い出したのか、銀屏と星彩が笑いあっている。
いやいや、あなた達の笑顔の方が数倍可愛らしいですから。





「二人とも…。
直ぐに起こしてくれたら良かったのに。
折角のピクニックだったのに勿体無い」





時間を無駄にしたような気分になって少し落ち込んでいると、張苞がにかっと笑って私の頭をポンポンと軽く叩いた。





「また行けば良いだろ?」





白い歯を見せる彼に思わず頷くと彼も『よし!』と言って、大きく頷く。

小さい子供をあやすような彼の態度は、一応年上なのに子供扱いをされているようで少し気恥ずかしい。





「じゃ、先に帰ってるね!」



「ほら、兄上も。
執務が残っているでしょう?」



「うっ…わかったよ」



軽く手を振って、走っていく銀ちゃんに星彩と張苞も続いて帰っていった。





「私たちも帰ろうか?」




そう言って後ろに立っていた関興に振り向くと、何か物言いたげな表情をしていた。

『関興』と名を呼んだ瞬間に右手首を掴まれ、引っ張られる。
一言『一緒に来て』と話した関興は、そのままズンズンと歩みを進める。


黙って彼の後ろについて、城壁の階段を歩いていると、暫く登ったところに開けた場所が現れた。

まるでマンションの七階位から見える景色が目の前に見える。
城壁ってこんなに高さがあったのかという感動と、視界に広がる夕焼け空と沈もうとする太陽。
真上の空には青のなかに紫とピンク色が交わり、太陽が沈む境界線はオレンジ色に染まっている。





「綺麗…」



「ここ、秘密の場所。
夕陽がよく見えるんだ」



「凄い。
太陽がすごく近くに見える。
本当に綺麗」



「そうだね。
朝陽とか…星空も…すごく綺麗に見えるよ?」




眼前の景色に瞳を奪われている私を見て、関興は嬉しそうに顔を綻ばせている。
『こっちにおいで?』と木のベンチのようなものに座った彼はポンポンと自身の隣を叩いた。
近くに寄ると、成る程、まるで手作りしたかのような木のベンチ。
繊細なフォルムのなかに、どこか荒々しさを感じる。
正に関興みたいだなと思った。





「これ、関興が作ったんでしょ?」



「うん。
座った方がゆっくり見れるから」




やっぱり…そう納得し、少し嬉しくなった私は言われるままベンチに腰かけた。
立っていた時よりも夕陽が同じ視線の位置になり、まるで映画館で綺麗な画質の映画を観ているようだ。





「本当だね。
あ、でも関興の秘密の場所なのに私に教えていいの?」



「萌は…特別。
だけど、他の人には…秘密」



「ふふ、うん。
わかった。
二人だけの秘密だね」





特別、秘密、という言葉は嬉しい。
その単語で何かわくわくするような…心が踊るような…そんな感じがする。



思わずにんまりする顔を抑えていると、突如腰に負荷がかかり、私の体が関興の方へ傾いた。
腰を見ると、関興の大きな手が回されている。
左に視線を上げると、すぐ近くで碧の瞳が私を捉えていた。





「…夕陽が…。
夕陽が沈むまで…こうしてて良い?」





この密着がどういう意図なのか解らず、思わず息を飲むような心持ちになり、ぐっと言葉に詰まる。
『沈むまでで良いから…』と切なそうな訴えるような目を向けられて、心が落ち着いた状態に保てなくなった私は視線を落として、無言でコクコクと頷いた。


私の頭は関興の左肩に寄せられ、関興の顔は私のこめかみに寄せられている。
こめかみに感じる彼の温かさに、胸に押し寄せるような激しい動機を感じ、何とか落ち着かせようと夕陽を見つめていると、腰に回されている手が少し震えていることに気がついた。


同じ…なんだ。

私も緊張しているけど、彼も緊張している。
まるで、始めて異性と触れ合いをもった時のような…少し照れるけど、少し幸せな感じ。
そんな、甘酸っぱさを感じた。





「…もうすぐ陽が沈むね?」



「うん。
でも…太陽が沈めば星空が見える。
星空が終わればまた…朝陽が見れる…。
そうして、このまま…ここで萌とずっと過ごせたら良いのに…。
ずっと…二人だけで…」



「…それって…?
どういう…」



「…そろそろ、行こうか?
夕食の時間に二人が居ないとみんなが心配する…」



「え?
う…うん」





まるで愛の告白のような関興の言葉に、彼の表情を伺おうと預けていた肩から身をのりだし、きょとんとしている私の腰に当てられていた掌が、一瞬強くなった後、すっと離れていく。


呆気にとられている私の左手を握り、立ち上がらせた関興は『行こう?』と綺麗な微笑みを浮かべ、またゆっくりと歩き出す。




『ずっと、二人だけで…』

彼の低い柔らかな声で囁かれたこの言葉が、頭の中でぐるぐると連呼する。


関興…。
どういう意味で言ったの?


私は流行る胸をそっと押さえながら、先を歩く彼の背中を見ていた。







彼女が私以外の男の傍にいると、無性に腹が立つ。
それが張苞でも他の男でも同じこと。


彼女を独り占めしたい…私のなかに閉じ込めてしまいたい。
そうすればずっとその笑顔を見ることが出来る…ずっと彼女に触れていることが出来るから。



夕陽が沈む。

彼女と離れる時間が来てしまうことを考えると、心が切なく苦しくなる。

彼女に触れていると、身体が震えるほど喜びが込み上げるのに。




『好きだよ、萌』

今は言えない想いをぎゅっと呑み込む。
彼女と繋いでいる手もぎゅっと握る。

指先を通して、私の想いが届くように。



いつか、いつか。

私だけのものになって?
貴女の全てが欲しいから。

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