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09/


【確信に変わる想い】逆トリップ四日目


ガヤガヤと賑わう居酒屋、美味しいお酒とご飯、目の前には割りかしイケメン部類の男達。
少し前の自分ならきっと満足していただろう光景が今はただ退屈だった。
話をするのも面倒くさい。
理由は解っている。
単純に好きな人が出来たからだ。
きっと一目惚れだったのだろう。

しかも、ただの好きな人ではない。

過去の戦国武将であり、更にゲームの中の人物だ。
こんな想い人がいるだろうか…。
考えれば考えるほど、恋に落ちた自分が情けなくなる。
それでも好きになった事は後悔していない。
だって、あんなに格好良くて不器用なほどに優しくて…。
魅力的な人なのだから。

飲み会に出発する前、全く気乗りしなかったが…清正にわざといつもより念入りにお化粧をして感想を聞いてみた。
ちらりと自分を見た清正は『いつもの萌の方がいい』という応えだった。

一言だけでいい。
行くなと言ってくれたら…。
でもそれは私のわがままだろう。

一方的に好きになられて、八つ当たりされる清正こそ可哀相だ。


盛り上がっている男女の恋愛模様の端の席で、私は黙々と箸を進めていた。
昨日清正と飲んだ楽しいお酒の後だからか、何故かお酒を飲む気がしなかった。

とにかく早く家に帰りたい。

昨日の夜、お互い気まずい感じになったまま、今まで特に会話もあまりなくこの飲み会に来てしまっていたので、彼の事がもの凄く気になっていた。
もし自分がいない間に清正が元の世界に帰ってしまっていたら…。
こんな状態のままお別れなんて絶対に嫌だ。
どうせ離れるのなら自分の気持ちを伝えてから離れたい。

しかし、舞の手前なかなか帰れない。
一度は了承してしまった飲み会だし、兎に角早く時間が過ぎてしまうことを祈りたい。


はぁ…と何度目かの溜め息をつくと、私の目の前から声が聞こえた。


「よく食べるね?」


視線を持っていけば、なる程イケメンであろう線の細そうな男性が座っていた。
確か自分の前の席は、ペラペラと独りでよく喋っていたチャラチャラした男性ではなかったか…。
うっとうしいので目線を合わさず適当に相槌していたら、もう喋らなくなったのでちょうどいいとは思っていたが…。
いつのまにか人が変わってる。
私が周りを見渡すと、チャラ男は舞のそばに移動していた。


「ああ。
席替えしたんだよ」


成る程…と心で呟いて、また食事に手をつけようとすると、線の細いイケメンはクスクスと笑った。


「また食べるの?
そんなにつまんない?」

「…私、あんまり喋れないので、あなたこそつまらないですよ?
他の女の子と話した方がいいと思います」


私の言葉に線の細いイケメンは『もう喋ってるじゃん、俺は楽しいけど?』と言って笑っていた。


ヤダこの人。
苦手な部類の人間だ。


こんなにわかりやすく話しかけるなオーラ出してるのに、全く気にしてないようだ。
ああ、嫌だ。
づかづかと土足で人のテリトリーに入ろうとする男は嫌いだ。


「何でそんなに不機嫌なの?
俺そういうの気になるんだよね。
他の女の子は皆楽しそうなのに」


ああ、この人。
舞の友達の男の幹事か。
そう言えば居酒屋に入る前にこの男の話を聞いた気がする。確か『格好いいんだけど、変わってんだよね』と話していたはずだ。
確かに変わっている。
飲み会をやる気のない女と話して何が楽しいんだか。


「わりかし格好いい男達揃えたと思ってたんだけど…」


あれ?
面食いだと思われてます?
違うんです。
そう言うことじゃないんだけど。
もう面倒くさい!


「あの、別に男の人達が気に入らないというわけじゃないんです」

「うん。
そうだろうね」


はっ?
何だって?

予想だにしない彼のコメントに思わず面食らう。


「萌ちゃん、そういうの気にしなさそうだ。
じゃ、どうしてそんな不機嫌なの?
凄く気になるなぁ。
何で?」


…………。

鬱陶しい!
しつこく聞いてくるイケメン男に全部ぶちまけそうになる。
もう、言ってしまおう。
嘘をつくのも下手くそだし、本当の事を言った方が、この尋問から解放されそうだ。


「私、好きな人がいるんです。
だから申し訳ないけど、他の男の人達と話す気になれないんです」

「そうなんだ」


意外にあっさり返ってきた返答。


「じゃ、何で飲み会にきたの?」


それは…。
来たくて来た訳じゃない。
半分意地。
半分諦め。


「それは色々複雑な理由があるんです…」

「こういう飲み会の場に好きな人がいる人は来ないでほしいな。
皆一応真剣に彼女探してるし。
皆楽しくしてるのに萌ちゃんみたいな態度とられたら、感じ悪いじゃん?」


私の回答にへらへらしていた彼の表情が一変して真剣なものになった。


この人の言う通りだ。
ちゃんと舞に断ればよかったんだ。
中途半端な事するから、清正ともギクシャクして、今この場でもこんな状態になってしまっているのだから。


「あなたの言う通りだと思います。
ごめんなさい…」


私が素直に否を認め、頭を下げると舞の友達は微笑んだ。


「もう帰っていいよ?」

「えっ?」

「その人の事が気になってるんだろ?
ちゃんと謝れたご褒美。
舞には上手いこと言っとくから」


急に目をキラキラさせ始めた私を見て、舞の友達は『わかりやすっ!』と言って笑った。


何ていい人なんだろう。
いや、元々いい人なのかもしれないが…。
さっきもちゃんと正論を話してくれたし、本当はとても真面目な人なのかもしれない。


荷物を持って、そっとその場から去ろうとすると、舞の友達とふと目が合った。

私は声を出さずありがとうと言った。
彼も声を出さずどういたしましてと言ってくれた。


私は晴れやかな気持ちで、清正の待つ家へ急いだ。


***


「舞。
萌ちゃん、帰ったよ?」

「ああ、何か乗り気じゃなかったもんね」

「好きな人がいるんだってさ」

「電話で言ってた男友達の事かな、別れて直ぐなのに。
相当入れ込んでるね、あれは」

「知らねえよ!
悔しいから、ちょっと苛めちゃった…」

「あんたホントタイミング悪いよね」

「今日はじめて話したけど、やっぱりいいなぁ〜。
萌ちゃん」

「一目惚れだったもんね。
また二年待つ?」

「はぁ。長過ぎ…」

「頑張れ、遼!」


幼なじみに励まされ、遼と呼ばれた線の細いイケメンは気弱そうに笑った。

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