小説 | ナノ

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萌が飲み会というものに出掛けてから、何時間かたっていた。
彼女が居ないだけなのに、まるで太陽がいなくなったかのように部屋が暗く静かだ。
綺麗に化粧をして、華やかな服装で出掛けて行ったが、今頃楽しんでいるだろうか。
『どうかな?』と聞いてきた彼女に素直に綺麗だと言ってやれなかった。


何故だ…。
心がざわざわする。
思い起こせば、飲み会の話を聞いた時から、苛々していた気がする。
萌が他の男と親密に飲んでいる姿を想像しただけで、心が波立ち騒いで落ち着かなくなる。

…馬鹿だ…。
自分の女でもないのに…嫉妬でもしてるのか…。
今まで萌独りを頼ってきた為か。

情…?

それとも…。

いや、あってはならないことだ。
この世界の歴史を知れば知るほど、早く元の世界に戻らなければという気持ちが強くなった。
秀吉様の天下を見てみたい。
そのためには早く元の世界に帰らなければ。

彼女とはいずれにしても離れる運命なのだ。
…いくら親しくなろうとも…。

本当は少し距離を置いた方がお互いの為なのかもしれない。
これ以上親しくなりすぎるとお互いに辛くなるだろう。
何より、俺如きのために彼女に辛い思いはさせたくはない。
しかし、この世界で頼れるのは萌しかいない。
何もわからない世界に突っ込む程向こう見ずでもない。


まるで堂々巡りだな。


電気をつけないままの真っ暗な部屋で、ゲームの画面を見つめながら、深く溜め息をついた。


その時、不意に玄関の方から音が聞こえ、暗かった部屋にパッと光が広がった。

まるで太陽が照らすかのように。

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