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にくいひと(仙石視点)


 今日は柳くんが学校を休んだ、名前が言うにはただの寝坊らしい

 そしてなぜか名前がうちに来た、母さんや父さんは名前が来て嬉しそうだったが、なんだか今日の名前いつもよりテンションが低い
 晩御飯のときとか名前はいつもと同じ用に振舞っていたが俺には違って見えた、従兄弟の勘ってやつだろうか

「翔、私ね、吉川さんが嫌い」

 晩御飯が終わって俺の部屋で何をするわけでもなくごろごろしていたとき、ロフトベッドで寝転がっていた名前が突然口にした
 ちなみに名前はすでにメイクを落としとしていて、俺は下でごろごろしていた
 きっと柳くんが昔吉川さんに告白したのが原因だろう
 今こそ柳くんと名前は恋人同士だが、柳くんが吉川さんに告白した当時は二人はただの幼馴染みだった
 きっとその時から名前は柳君のことが好きだったんだと思う、独占欲の強い名前のことだ、告白事件は相当ショックだっただろう

「翔聞いてる?」
「ああ、聞いてる」
「じゃあなんか言ってよ」
「何を言えばいいんだよ」
「なんか」

 無茶ぶりすんな、そう言えばうるさいチキンと返された
 下からだとロフトにいる名前の様子はわからない、どんな顔をしているのだろう、きっと笑っているか、今にも泣き出しそうに違いない

「明音が吉川さんに告白したって聞いたとき死にたくなった、知らない女の子に明音をとられたって泣いて泣いて泣きまくった」

 昔、名前から柳くんの話を聞いたことがある
 名前が親に連れられてうちに来たときに、明音が明音がって耳にたこができるくらい自慢されたのを覚えている
 そのことを思い出したのはつい最近だけど、きっと名前ももう忘れてるはず

「たまに吉川さんちに行ってるのも知ってる、吉川さんのお姉さんに本を借りてるだけなのも知ってる」

 だけどそれすらも嫌なの、今にも泣きそうな声がロフトから漏れた
 俺はただただ名前の言葉を聞くだけだった

「みんな嫌い、明音に近づく女の子は誰だって嫌い、男の子も嫌い、みんな死ねばいいのに」

 だんだん嗚咽が混じって声も小さくなる、泣いているんだ

 いつもこうだった、何か嫌なことや悲しいことがあれば俺の家に泊まって全て吐き出す、俺はただただ聞くだけ
 高校に入ってからはこういうことが少なくなって安心していたのに、心配ごとが増えた

「でも、明音に嫌われたくなくて、でも明音を独占したがっている醜い自分が一番嫌い」

 知らない人にまで嫉妬している自分が嫌い、とひたすらぶつぶつとつぶやき始める、自己嫌悪に陥ってしまったのだ
 俺はゆっくり階段を上がりロフトにいる名前を見る、それに気づいたのか名前は見るなチキン野郎、と布団をかぶった

「チキン野郎で結構」

 そう言って俺は布団の上から名前を思い切り抱きしめた、それはもう窒息するくらいに
 案の定名前は苦しみだしたが、布団の隙間から出した顔は笑っていた
 昔から自己嫌悪に陥ったときの名前は思い切り抱きしめてやると落ち着く、人肌に触れることによって安心感を得るらしい

「落ち着いたか?」
「……うん、やっぱ翔はすごいや、チキンだけど」
「チキンは余計だ」
「ふふっ」

 涙と鼻水だらけの顔にティッシュを押し付けて顔を綺麗にさせる、その間に俺はタオルを濡らしてくる
 あのまま寝たらきっと明日痕残るだろうから
 部屋に戻ったら静かで、嫌な予感が頭をよぎる、恐る恐る階段を上ってロフトを覗く

「すー、すー」

 こいつ、寝てやがる……、明日も学校だってのに痕残るぞ
 とりあえず濡れタオルで顔を拭いといてやった、俺って優しい


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