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 この本丸では日替わりで近侍を替えており、これは秘書的な役割ではなく守り刀としての役割が大きいため本丸にいる刀剣全てに均等に割り当てられている。
 ちなみに秘書は初期刀である清光と、神使である瑞希が熟している。

 今日の近侍は秋田藤四郎。守り刀としての期間が長く戦場で使われた経験は皆無に等しい。
 故に戦に出すのは不安ではあるが本人は出陣や遠征には至って前向きであり、私はそれを尊重して少しずつではあるが戦場へ送っている。

 参拝者も落ち着いてきた昼下がり。書類も一区切りついたので休憩を取るべく、縁側にて瑞希に煎れてもらったお茶を啜っていた。
 秋田、私、瑞希の順で縁側に腰を据え、庭にある満開の梅の花を見上げる。

「主君、梅の花が綺麗ですね」

 嬉しそうに笑う秋田の、桃色の髪に梅の花びらが乗ったのでそれに手を伸ばす。

「ああ、秋田の髪と同じ色だな。とても綺麗だ」
「あ、その……ありがとうございます」

 素直に思ったことを言えば、秋田は頬をほんのりと染め俯き気味に礼を言った。

「名前ちゃんってばほんと罪作りだねぇ」
「そんな気は無いんだけどなぁ」
「はい、お茶請け。秋田君もどうぞ」
「!」

 そう言って差し出された盆の上には社から少し歩いた所にある老舗の和菓子屋まで瑞希が買いに行ったおはぎが置いてある。
 秋田はおはぎを見た瞬間から目を爛々と輝かせていたが直ぐに食べようとせず、私が口を付けるのを待っているあたり主従関係を尊重しているのだろう。
 気にせず食べるよう促してやれば、おずおずとおはぎを手に取って一口。みるみるうちにその顔は驚きに満ち、すぐに破顔する。
 そこからは口の周りが汚くなるのも気にせず幸せそうに完食した。

「美味しいかい?」
「はい! こんなに美味しいおはぎ初めてです!」

 秋田の言うとおりこのおはぎの美味さは無類だ。彼処の和菓子屋は明治創業の老舗で、一つひとつ手作りであるため味と品質は確かだ。
 特におはぎは絶品で、初めて食べた時の感動は今でも覚えている。

「私の分も食べていいよ」
「わぁ〜い!」
「瑞希じゃない。秋田に言ったんだ」

 私の分のおはぎにを狙って伸びてきた瑞希の手を軽く叩いて制止する。
 痛ーいなどと言っているが強く叩いたつもりはないし、何より顔が痛がっていない。むしろ喜んでいるから瑞希はそういう性癖なのだ。

「僕に……本当に良いんですか?」
「ああ、ここのおはぎは何度か食べたことがあるからね。その代わり夕餉は残しちゃダメだよ」
「はいっ、ありがとうございます!」

 二個目を食べている最中も秋田は幸せそうで、見てるこちらまで温かい気持ちになる。
 夕餉は何だろか、なんて会話をしていると聞き慣れた声が耳に入ってきた。

「あー! 美味そうなもん食うちょる!」
「ずるいばい!」

 内番の畑仕事を終わらせた陸奥守と博多が目敏く私たちを見つけて走ってきた。手や顔は泥だらけである。

「わぁっ。二人とも泥だらけですね!」
「内番ご苦労様」
「おはぎなら冷蔵庫に入ってるからお風呂に入ってから食べてねぇ」
「よっしゃあ! そうと決まれば博多、行くぜよ!」
「りょーかいばい!」

 瑞希の言葉に、秋田よろしく目を輝かせた二人は風呂場へと走っていった。嵐の如くという表現は今の彼らにぴったりだ。
 こうして本丸で過ごす午後も悪くないと思った。今にも寝てしまいそうな春麗らかな陽気の中で。


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