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 ※モブ審神者出てきます


 審神者の人数はそう多くない。政府にとっての過去に当たる時代まで遡りスカウト基審神者の要請をしているくらいだ。
 数としてはざっと見積もって百人にも満たない。日に日に数を増している歴史修正主義者に比べれば、我々はかなりの少数精鋭だ。
 たからこそ練習試合を組み効率的な練度上げなどを熟していかねばならず、人見知りな審神者でも週に一回はここに訪れる。

「やあ、蛇衣殿」

 神に真名を知られてはならないという理由から、我々審神者には通名が存在する。
 私は祭神である故に必要としないのだが郷に入っては郷に従え、彼らの前では蛇衣の審神者と呼ばれている。
 目の前で爽やかな笑みを浮かべる青年は相模国を拠点としている通称、青風の審神者。一々審神者と付けるのも面倒なので通名のみを呼ぶ場合が殆どだが。

「青風殿、今日はお手柔らかにお願いするよ」
「ははは、こちらこそ。……えっと、今日はお互い第二部隊での手合わせだよな?」
「その予定だけど、何か……?」
「いや、何か強そうなのばっかりだなぁと……」

 そう言われて我が部隊を見やる。
 蜻蛉切を筆頭に、和泉守兼定、燭台切光忠、次郎太刀、長曽祢虎徹、大倶利伽羅と確かにぱっと見は強そうだが中には最近入った刀もおり、全体的に練度はそう高くない。

「ああ、そのことか。彼らは正真正銘第二部隊。強そうなのは見掛けのみに過ぎないさ」

 彼らの中には最近入ったばかりの新人もいてね。そう告げれば青風殿は安堵の表情を浮かべる。
 一方、粟田口使いとして有名な青風殿はお得意の粟田口の短刀ばかり。
 彼は一軍も粟田口中心なので、むしろそっちこそちゃんとした第二部隊なのかと問いたくなる程の粟田口贔屓である。

「そもそもこちらの第一部隊の面子は知っているだろうに。面白い御仁だ」
「ははっ。どうぞお手柔らかに」
「こちらこそ」




 結果を言うと演練はこちらの勝利。勝ちと言っても辛勝で、短刀特有の機動の速さと軽快な動きに翻弄されっぱなしだった。
 戦事につあて、もっと勉強する必要があるなぁと。
 この結果から敵短刀に対する各刀種への課題点などが見えてきた。

「本日はありがとう。勉強になったよ」
「こ、こちらこそありがとうございました。流石は蛇衣殿。……そ、それでですね」
「? 何か……?」
「この後お茶でもどうかなって……」
「……構わないけど」
「よっし!! じゃ、そういうことだから、お前たちは先に本丸に戻っててくれ」
「はーい!」

 楽しそうに踵を返す粟田口の短刀たちを横目に私も蜻蛉切に先に帰るよう伝え、青風殿は乱を、私は長曽祢を連れて演練場に併設されたカフェテリアへと向かった。

「いらっしゃいませ。四名様ですね、お好きな席へどうぞ」

 審神者に女性が多いからか店内はどの時代でも受けの良そそうなデザインになっており誰でも気軽に入れる雰囲気作りがなされている。
 長曽祢が珍しいのか、入るや否やちらちらと彼に視線を送る審神者が多く私たちは人目の少ない二階へと向かった。
 適当に窓側の見晴らしの良い席に座れば店員が人数分のお冷を置く。外では演練中の刀剣たちの姿が見えた。

「好きな物を頼んで良いよ」
「わーい! じゃあボク、オレンジジュースとパンケーキ!」
「蛇衣殿は?」
「私は紅茶とフルーツタルトのセットにしようかな。長曽祢は何にする?」
「そうだな、コーヒーと……ビーフカレーを頂こう」
「じゃあ俺もコーヒーと、サンドウィッチで」

 注文を聞き終えた店員は再度確認すると軽く一礼し、階段を降りていった。

「いやぁ、こうして蛇衣殿とゆっくり話をするのは初めてだな」
「言われてみれば……会議でも席が遠かったね」
「良かったね主っ。蛇衣さんとお近づきになりたいってずーっと言ってたもんね〜」
「おい! おま、それは言うなって!!」

 顔を赤くする青風殿と、全く悪びれる様子のない乱。てへぺろと舌を出して小さく笑う彼は私よりも女子力は高いだろう。

「主殿はモテるのだな」

 色々な者に。口にはしていないが言い振りからはその言葉が読み取れた。長曽祢の意地悪い笑みが憎たらしい。
 青風殿の反応を見る限りそう言った意味合いの好意だとすぐに解ったが、その気持ちに応えることは出来ないので曖昧に笑い返すことしか出来なかった。

「別にそういうんじゃねぇから!」

 彼がテーブルを叩いて立ち上がったところにタイミング良く店員が注文した品を持ってきたお陰でその話題は自然と流れていく。
 しかし気まずいのは変わらず、私は誤魔化すようタルトにフォークを入れる。旬の果物を使ったカラフルなフルーツタルトは紅茶とセットにしているだけあって良く合って美味しい。今度清光も連れて来てあげよう。
 正面ではパンケーキを食べて頬を緩める乱の頭を優しく撫でてやる青風殿。その微笑ましい光景は端から見たら歳の離れた兄妹にしか見えない。
 一方長曽祢は先ほどの演練で余程腹を空かせていたようで、運ばれてきたビーフカレーを勢いよくかき込んでいる。

「ふふ、そんなに急いで食べなくても逃げやしないよ」
「そんなに急いで食べていたか?……何だかまだこの身体に慣れなくてな」
「ゆっくり慣れていけばいいさ……美味しいかい?」
「ああ。美味いという感覚は気持ちの良いものだな」

 人と触れ合うことで彼も付喪神として少しずつ成長していく。

「ハハッ」
「? 青柳殿、どうかしたかな?」
「いや、そうやってしていると兄妹みたいだなぁと……」
「そうかな?」

 青柳殿の言葉に長曽袮と二人、顔を見合わせる。
 確かに外見年齢は近いため兄妹に見えても不思議ではない。それにしても随分と似ていない兄妹だ、自然と笑えた。
 この妹は俺には出来が良すぎる。そう言って私の頭を撫でる長曽祢も笑っていて、手つきは少々乱暴だが痛くはない。私は一人っ子たったが故に兄弟というものがよく分からないが、兄がいるとしたらきっとこういう感覚なのだろう。

 結局カレーをぺろりと平らげてしまった長曽祢は、食後のコーヒーを飲む。蜂須賀と同じブレンドを好むあたり似た物同士なのだと思える。

 それからは最近の検非違使情報の交換やら新しい出陣先の編成についてなど、殆どが審神者業務に関する話題ばかりでパーソナルな話は殆どない。
 それもそのはず、私と青風殿は歳は近くても生きている年代が違うのだ。
 審神者として力が人間に発現し始めたのが二十一世紀初頭だったため、その時代から政府が管理可能な二十三世紀頃までの老若男女が審神者業を熟しているそうな。
 故に他の審神者らと会話が噛み合わなかった場面は数知れず。一言で言ってしまえばジェネレーションギャップ甚だしい。
 それは他の審神者たちとて同じであり、自然とそういった時事話題は出さなくなってしまうのが殆どだ。逆に時代の近い審神者と出逢った時は奇跡にも似た感動を覚えるのだがそれはまた別の機会にでも。

 現にその好意から私を退屈させまいと彼はそういった時事話題は出さず、共通話題である刀剣の話で場を盛り上げてくれている。

「そういえば近々新しい刀剣男士が実装されるらしくて、噂によれば短刀だとか!」
「新しい刀剣……どんな男士が来るのか、今から楽しみだね」
「粟田口なら良いな! 一期もきっと喜ぶ!」

 そう言って爽やかな笑みを浮かべる青風の審神者に、私はまた愛想笑いで返すことしか出来なかった。

 その最大の理由が審神者の間でよく使われている実装という言葉が、私はあまり好きではなかったから。
 端くれとはいえ神である彼らを、我々の代わりにその身を削って戦っくれている彼らを、まるで無機物のように扱うその言葉を私は良く思えないのだ。
 時の政府が掲示の際に使う語句は大多数の審神者たちに違和感なく浸透し、日常会話として使用されていく。実装という言葉もそのうちの一つだ。
 指摘されなければ然程気にならないことで。この差異は私が現人神だからではなく、神様に救われたと人間だから感じているのかもしれない。

「蛇衣殿? どうかしたかい?」

 この時の私はきっと酷い顔をしていたのだろう。
 そんな私を長曽祢が見つめていたことにすら気付かず、青柳殿が声を掛けてくれたことでようやく意識を戻す。

「……あ、いや、何でもないよ」
「ああごめん、もしかして喋りすぎたかな……」
「そうだよ! もうっ、主ってば。お喋りな男の子はモテないよ?」

 モテないという言葉に青柳殿は顔を強張らせ、こちらを見やったので安心させるよう笑みを浮かべる。

「いや、とても楽しかったよ。ありがとう」

 程なくして食事会はお開きとなる。誘ったのだから支払いは自分がするよと申し出た青柳殿の顔を立て、ここは素直にご馳走になった。
 そうしてカフェを出て彼らと別れる際、長曽祢が彼を呼び止めた。

「……青風殿。俺から一つ、質問をしても良いか?」
「お、おう……俺が答えられる範囲で良ければ」

 一体何を尋ねるつもりなのか、失礼なことを言わないか内心はらはらしつつ長曽祢の次の言葉を待った。

「青風殿にとって“神様”とは何だ?」

 彼を見定めるように見やる長曽祢。

「何だそんなことか。この子たちは大事な仲間であり家族だよ」
「そうか……」

 なんて当たり障りのない言葉だろう。彼の爽やかな笑顔が途端に胡散臭く見えてしまった。

「はぁ……俺は“神様とは何だ”と問うたのであって我々に媚を売れとは言っていない」
「なっ……!」
「なが、そね……」
「それらしいことを言って主殿の好感度を上げようなど見え見えだと言っているんだ」
「は、お前何言って……!」
「問題外だな。申し訳ないが青柳殿に我が主殿は渡せない」

 にやりと笑って私の肩を抱くと、捨て台詞と共に強引に門を潜らされる。
 去り際に彼が何か言っていた気もするが確認する気にもなれなかったし、もうどうでも良かった。
 まったく、私はつくづく色々な者に好かれたものだ。

「主お帰り〜……って何くっついてるの!」
「ちょっと! 名前ちゃんから離れてよ!」
「いやぁ妹を守るのは兄の役目なのでな」
「何それ!」



 時間かけたけど上手く纏められなかった……悔しい


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