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 夜ノ森神社例大祭当日。

 連日の猛特訓の成果もあり刀剣男士を交えての三条神楽舞は大成功を収めた。
 特に三条派五振りでの宝剣作の舞はその背景から配役もすんなりと決まり随一の完成度を誇り、祭客にも非常に好評であった。

 神楽の余韻が残りつつも祭りの見回りをしなくてはならないのでいそいそと着替えて社を出る。
 流石に夕方にもなると日中の蒸し暑さも緩和され、時折吹く涼風が神楽で火照った体を冷ましてくれた。

「名前ちゃんお客様だよ〜」

 瑞希に案内されるがままにこちらに来たのは奈々生と巴衛で、二人とも浴衣を着ており、口にはしないが傍から見ればカップルだ。

「奈々生、来てくれてありがとう」
「お礼を言うのは私達の方だよ。招待してくれてありがとう! 名前たちの神楽、とっても素敵だった」

 花が咲いたみたいに笑う奈々生に私も、ありがとうと笑い返す。
 話し込む私たちを他所に巴衛はきょろきょろと周りを見回し、眉間をしわを寄せる。

「……他の連中はいないのか」
「他の……ああ、彼らなら今各々露店を巡っているはずだよ」

 きっと刀剣たちのことを言っているのだろう、その表情は少々訝しげだ。

 前祭り、本祭り、後祭りの三日間に渡り開催されるヨノモリ祭。蜻蛉切の提案によりその三日間をそれぞれ前半後半に分けて計六グループでのシフトを組むことにしたのだ。
 この蜻蛉切の案は、本丸の警備も薄くならず全員が祭りを楽しめる理想的なもので、刀剣たちのシフトは滞りなく決まった。
 今は本祭りの後半。清光を始めとする新撰組縁の刀剣や伊達に関わる刀剣らが楽しんでいるはずだ。

「気になるのかい?」
「そりゃあな。……お前、自分のことにはすこぶる鈍感だからな」
「巴衛君は名前ちゃんの保護者じゃないでしょ」

 呆れた様子の瑞希が言う。確かに巴衛もミカゲさんも私が小学校に上がる前からの付き合いで、巴衛には妹的な存在なのだろうが、流石にもう成人しているのだから大丈夫だ。
 それに巴衛には今は奈々生という主人がいるのだから私を気にする必要などない。

 私達の会話を聞いていた奈々生が複雑そうな表情で私に耳打ちする。

「名前って巴衛とどんな関係なの!?」
「私が小さい時からの付き合いってだけで、兄妹的な感覚だと思うよ。奈々生が思っているような仲ではないから大丈夫」
「そ、そう……」

 私の言葉にほっと胸を撫で下ろす奈々生。巴衛も私もそんな気は微塵も持ち合わせていないし、寧ろ巴衛は奈々生を気にかけているように思える。
 もしかしたら彼らへの警戒心は奈々生を思う故だろうか。だとしたら私的には面白いのだが。

「まぁそんなことより、祭りは神楽だけじゃないからね。奈々生たちも楽しんでいってほしい」
「うん。名前、今日は本当にありがとう! じゃ、またね! 行こ、巴衛」
「お、おい引っ張るな!」

 いつもの明るさを取り戻し、元気よく手を振って人混みに消えていく奈々生たちを見送った。
 何だかんだで二人の距離は縮まっているように見え、安心した。

 奈々生たちが見えなくなって安堵したのか瑞希が欠伸を噛み殺した。今年は審神者業や神楽の数が増えたりと例年よりも忙しなかったから、流石の瑞希も疲労が溜まっていて無理からぬ。

「瑞希、眠いのなら先に戻って寝てていいよ」
「うーん。でも……」
「大丈夫、何かあっても彼らがいるから」
「……じゃあお言葉に甘えようかな」

 祭りは明日もあるのだし、それでなくても瑞希に倒れられては困る。警護ならば刀を所持していないとは言え人数がいるのだから大丈夫だ。
 再び欠伸をしながら社に向かっていく瑞希を見送って、一息つく。うん、暇だ。
 神楽が終われば私の出番はもう殆どなく、妖かしたちとの挨拶も前日に済ませてあるため本格的に手持ち無沙汰となり、見回りがてら刀剣たちの様子を伺うことにした。


「がははは! ちぃーとも当たっちょらんのぉ!」

 聞き慣れた方言が聞こえてそちらを見やれば、射的屋に陸奥守と和泉守と堀川がおり、何だか珍しい組み合わせだと遠巻きに様子を伺う。
 どうやら陸奥守が和泉守を焚き付けて射的で勝負をしているらしく、その横で堀川が微笑ましげに見守っている。

「笑うんじゃねぇ! 銃なんてもん初めてなんだからしょうがねぇだろ!!」
「大丈夫だよ兼さん、落ち着いて。次はいけるから!」
「おう、任せとけ! 親父もう一回だ!!」

 刀剣男士の中では比較的銃の扱いに長けている陸奥守が勝っていて、負けず嫌いな和泉守に火をつけているようだ。
 前の主の事もあって余り話しているところを見ない彼らだったが、案外仲は悪くないようで安心した。
 真剣勝負に水を指すのも悪いと思い、声をかけずに次へ。
 ちょうど二つ奥の店では燭台切たちが綿飴を買っているのが見えた。

「ほらくりちゃん、わたあめ甘くて美味しいよ」
「いらん……」
「すげぇ美味いからくりちゃんも食ってみろって!」
「その名で呼ぶな……!」
「ほらほら」
「おい、やめっ……! 甘いな……」

 無理やり食べさせられたが、どうやら気に召したらしく燭台切から棒を奪い取り黙々と食べ進める。
 最初こそ燭台切と太鼓鐘に引っ張られて渋々だった大倶利伽羅も楽しんでいるようで何よりだ。

「あ、主。見回りかい? お疲れ様」
「ふふっ。三人とも楽しんでいるようで何よりだよ」
「なぁ主見てくれよこのお面! 派手で良いだろ!」
「ふふ、そうだね。格好いいよ」

 キャラクター物のお面を頭に付けて喜んでいる太鼓鐘の頭をぽんぽんと撫でてやる。

「余り遅くならないうちに本丸に戻るんだよ」
「わかってるって!」
「僕がいるから安心して」
「ん、任せたよ」

 軽く手を振り三人と別れ、何となく社へと戻ってみれば縁に座って酒を煽っている三日月がいた。

 ヨノモリ社の祭りと言えどやはりメインとなるのは露店であり社に集まっている者はほとんどいなく、精々が御参りか小憩目的の者くらい。
 だからだろうか、地続きにも関わらず社だけが喧騒から取り残されたように妙に静かだった。

 この間鍛刀した時からあまり話したことはなかったなと思い彼の隣に腰を下ろす。

「……ん、主か」
「三日月は露店に興味は無いのかい?」
「いやなに、興味が無いわけではない。ただこうして眺めている方が好きだな」

 そう言って三日月は猪口に酒を注いで煽った。喧騒を眺めて微笑むのは彼なりに祭りを楽しんでいる証だったか。
 彼の慈しみに満ちた眼差しの先が気になって視線を辿れば、そこには両親に挟まれて笑顔でりんご飴を頬張る子供がいた。

「童が元気な国は美しい」

 ぽつりと、隣にいた私でやっと聞き取れるくらいの声量で出てきた言葉に私は静かに頷く。この先の未来でも子供が笑って過ごせる国であってほしい。
 他の家族連れやカップルや友人同士で来ている者も、誰しもが今だけは日常を忘れて一時の祭事に心を踊らせている。

「祭りは良いな。見ているだけで心が踊る」
「うん」
「こんなにも賑やかなのに、明日になれば終わってしまうのだな」
「……寂しいものだね」

 今日こそ本祭りとあって一層賑やかな夜であるがそんなヨノモリの祭りも明日で終わりだ。祭りが終われば夏が終わりを迎える。そうしたらもうすぐ秋だ。

「始まりがあればいずれ終わりを迎える」
「……そうだね」
「こうして人の姿を得て、人の世を過ごせるのは新鮮であり変え難いものがあるがそれと同時に終わりがあるというのはうら寂しいな」
「……」

 三日月の言葉に私は何も返さなかった。否、返せなかった。

 どんな結果になるにせよ歴史修正主義者たちとの戦いもいつかは終息する。
 そうなれば分霊である三日月や清光たちが本霊へと戻されることは審神者ならば皆知らされていること。
 だからこそ何年、或いは何十年、何百年先になるかは分からぬが、訪れるであろう“その時”を惜しんでしまわぬよう余計な感情を持ち合わせてはならないのだ。

 こんな時にそのことを再認識させられるなんて思いもしなかった。心臓を針でつつかれているような居心地の悪さだ。

「主よ、今宵は月が綺麗だぞ」

 そんな私の思いを知ってか知らずか、三日月は頬をほんのりと朱に染め、穏やかな笑みを浮かべた。
 今日の彼は少し飲みすぎている。



 久々過ぎて上手く書けてない&貞ちゃんのキャラがいまいち把握できていないです;;


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