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▼乱馬の姉ちゃん02

・キング編、天道道場取られた後

「ねぇ名前、何とかならない?」

 彼女自身、お好み焼きは永遠に食べていられる程の好物だがこのまま右京の所に厄介になるわけにもいかないことは瞭然。それにあのいかさま師も気に入らない。
 ついに、いつの間にか天道・早乙女両家の最後の砦となっている彼女が重い腰を上げたのだった。

「うん、わかった。全部私が取り返すね」

 ちょっとコンビニ行ってくる。そんな軽いノリとは裏腹に彼女の顔は真剣だった。真剣に怒っていた。


「頼もしい!」
「さすが我が娘!」


 ババをちょいと出すだけで引いてしまうような子供だましのようなテクニックが通用することと、こちらが引こうとするとき表情に出やすいこと。これら二つはキングの最大の弱点である。
 小学生相手には楽勝だろうが高校生、しかもかなり優秀な部類の名前には通用しない。
ことであるのはなびきとの勝負を見ていたときに感づいていた。

 能面もびっくりの無表情に、そして子供だましのテクニックで順調に天道家を取り戻してゆく。合間に早雲が何回か勝負をしては負けていた尻拭いもきっちりとこなすのを忘れず。
 これでは不味いと考えたのだろうキングが得意のいかさまをし始めるが、尚も彼女のポーカーフェイスは崩れない。


「……何故勝てない!?」

 キングがいくらババをすり替えよいとも必ず手元に戻ってきて、負ける。常人の目には見切れぬ早さでいかさまを行っている自分の速さを上回っている、そんなわけはありえない。
 しかし彼女にはそれがありえたし、成し得るのだ。火中天津甘栗拳の応用でキングの目ですら追えぬほどの速さで微塵も違和感を感じさせぬいかさまを行っているである。
 奇しくも己の勝利のために行ったいかさまが、彼女にいかさまを使わせる合図となったのだ。追いつめていたはずのキングはむしろ追いつめられていたのだ。

「貴方は速い。けれど私がそれを上回る早さだっただけよ」

 彼女はそこで初めてポーカーフェイスを崩し笑顔を見せたが、それは気味の良いものではなかった。美人の笑顔のはずなのに眼だけは笑わっておらず、キングに対し射殺さんばかりの視線を送っている。
 背筋を嫌な汗が落ちるのを感じながら残り一枚になった彼女の手札を引き抜く。天道家の玄関を取り戻し、残りは道場のみとなった。
 名前はふう、と悩ましげなため息を吐くと

「このままじゃあ埒があかないから、そろそろ最後の勝負といきましょう?」
「そのようだな。最後くらいは正々堂々と勝負しようではないか」

 キングが用意した最後の勝負はハートのエースとジョーカーのトランプ二枚だった。その二枚を、絵柄が見えぬようシャッフルしテーブルへ伏せるとキングは名前に一枚選ぶよう言った。エースを引けば名前の勝ち、ジョーカーを引けばキングの勝ち。
 運任せとも言える最後の勝負、どちらがエースかはキングにも分からない。もっとも、キングがイカサマを働いていなければの話だが。
 どちらがエースか、
 不適に笑うキング

「な、なぜ……!?」

 名前の選んだカードは見事にハートのエース。イカサマをしたはずのキングは自分の予測していた結果ではないことに驚愕し、ひっくり返されたカードと彼女の顔を交互に見やる。

 キングが去っていった後。

「あのキングが正々堂々勝負を持ち掛けるなんて……」
「いえ、イカサマされていたわよ?」
「え、でも名前はハートのエースを……まさか……」
「ええ。正々堂々とイカサマをしたのよ」

 にっこりと微笑んだ名前。彼女には適わない、別の意味でそう思った一同であった。



「俺は名前さんが好きなんだぁぁぁっ!」

「えっと、その……盗み聞きするつもりは無かったんだけどね、私ってばてっきり良牙くんはあかねちゃんが好きなんだと……私勘違いしてたのね、うん、その、ね……ごめんね!」

「き、聞かれた……もう終わりだ……」
「良かったな良牙。脈ありだぞ」
「どこが脈ありなんだ!?」
「今までの姉ちゃんは幾度となく告白されても笑顔で断ってたんだ。あれだけテンパってりゃ十分脈ありの証拠だ」


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