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▼01  First day.

 やけに物々しい、如何にもセキュリティの塊であることを主張している門をくぐれば豪然たる佇まいの校舎が彼を迎えた。
 国立雄英高等学校。今日から彼、名字名前の通う学校だ。


 “個性”と呼ばれる超常能力が当たり前となった現代社会において、“個性”を悪用する者とそれを取り締まる者が存在している。
 前者は“敵(ヴィラン)”と呼ばれ、チンピラから凶悪犯罪者まで様々だ。そのヴィランを、個性を用いて取り締まる特別な資格を有する者が“ヒーロー”である。
 そんなヒーローになるための資格取得に特化した学科の中でも日本最高峰に当たるがここ国立雄英高等学校ヒーロー科なのだ。現役ヒーローが教鞭を執るこの学校のヒーロー科倍率は毎年三百倍にもなり、その難関を超えし者だけが偉大なヒーローとなる資格を得るのだ。
 名前はその超難関とも言われるヒーロー科を祖母の勧めにより志願し、推薦入試であっさりと合格してみせた。

 本人に自覚はないが名前の容姿は人の目を惹く。加えて成績も優秀で“個性”も素晴らしく性格も良いのだから女生徒からの人気も高い。
 そんな名前が超難関の雄英高校ヒーロー科をあっさり合格してしまったのだから噂が広まらないわけがなく、その知らせは教師は勿論のこと彼の通う中学校中に広まり、今までの“密かな人気”が一気に“学校一の有名人”となってしまい居心地の悪いまま卒業までの数ヶ月を過ごすこととなってしまったのは苦い記憶だ。
 余談だが卒業式当日、いつの間にか制服のボタンが全て取られていたという逸話もある。

 そんな聞く人によっては不愉快な伝説が短い期間でいくつも樹立されていた頃が遠く感じるのは、校舎に入っても誰も近寄ってこないからだろう。
 こんな静かに登校するのは久しぶりだった。若干の心地よさを感じつつ名前は自分のクラスであるA組の教室の前まで来て思わずその扉を見上げてしまった。

「(でかい……)」

 どんな“個性”の人間が入学しても大丈夫なよう各教室の扉は特注と思われる大きなサイズとなっており、その見た目に反してが建付けは良く、彼が手をかけると静かな音で開いてくれた。

「(でも本来の姿だったら通れなさそうだな……)」

 A組の生徒はまだ誰も登校しておらず教室内はがらんと静まり返っている。初日ということで何となく早く出てきたが、この時間帯でこれならば明日からはもっと遅い時間に登校しても良さそうだ。
 早起きしたことを早々に後悔し、大きな欠伸を一つ。

 教卓の上に置かれた座席表を確認し自分の席に座った途端に、早起きによる眠気が迫ってきた。机上で突っ伏して寝るのは少々硬すぎるが慣れていないわけではなく、すんなりと入眠体制に入る。
 彼の瞼が完全に落ちた数秒後、教室に新たな生徒が入ってきたのだが、完全に寝入ってしまった名前が気づくはずもなかった。

「(おや、僕が一番最初だと思ったのだが……)」

 今し方登校してきた飯田天哉は、いつもより早い時間に起き、これから自分が学んでゆく学び舎にいの一番に登校して来たつもりだったのだが、教室に入ってみれば一つだけ埋まっている席があることに気づいた。
 その人物は机に突っ伏して寝ており、自分ですら気を抜いたら欠伸が出そうになるのだからそれよりも早く起きたであろう彼が寝てしまっているのを咎めるつもりはなかった。ショートホームルームが始まるまでは何をしていようと生徒の自由だ。
 それに、窓から入る朝日によってきらきらと輝く銀髪の間から覗く表情はとても気持ち良さそうで、起こすのは憚られたのだ。


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