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▼オリオンになぞられて06

 心に穴が空いたような、記憶が欠如している感覚。

 こうなることを予想していた訳ではないが、最悪の場合に備えて彼女は日記をつけていた。
 誰にも知られないよう密かに付けていた日記は、マーベリックの手先が部屋に何かしらの手を加えようと者を持ち去ろうと絶対に見つからない場所。


 10年前の、オリオンスターとしてデビューした頃の日記帳だった。

“10月○×日
 今日、初めての友達が出来た。斉藤さんというアポロンメディアのメカニックさん。
 オリオンスターの衣装を作ってくれてて、甘いものが好きなんだって、気が合いそう!
 年は離れてるけど友達に年の差なんて関係ないよね。”

 懐かしさに微笑みながら、ページを捲ってゆく。
 とあるページで、ぴたりと手が止まる。

“11月××日
 新しい友達が出来た! 同期のワイルドタイガーの中の人、鏑木・T・虎徹。
 年上だけど友達に敬語は要らないって教えてくれた。私の半分と同じ日本人。
 正義感が強くて優しくてとっても温かい人。お父さんみたいで、一緒にいると安心する。”

 鏑木虎徹と言えばバーナビーの知り合いを殺害した容疑でみんなが追っている人物ではないか。
 その人がワイルドタイガーで、自分の友達だなんて信じがたい。

“虎徹の奥さんの友恵とも友達になった!
 私がオリオンスターだと知ったら友恵は、応援してるよって笑ってくれて、とっても嬉しかった。
 娘の楓ちゃんも私と友達になってくれるかな?”

 何故なら名前の知っているワイルドタイガーとは全く似ても似つかないのだ。
 彼女の知っている彼は、寡黙で本名不明の、ただの同期だ。友達なんかじゃあない。

“虎徹のチャーハンは思わず泣いちゃうくらい、美味しかった!
 誰かの手料理を食べたのは何年ぶりだろう。ありがとう虎徹。”

 しかし何故だろうか、名前の心はじんわりと温かみを取り戻してゆくではないか。

“友恵の体調が良くないみたいで、しばらく入院することになった。心配だ。
 虎徹と一緒に病室に駆け込んだらうるさいって婦長さんに怒られてしまった。
 それを見てた友恵に笑われちゃった。”

 日記に書かれている“鏑木虎徹”についてもっと知りたい。
 自然と手は動いてゆく。一冊目が終われば次のノートへ。
 五月蝿い程に呼び出しているPDAを無視してまで、彼女は日記に夢中だった。

“今日、楓が名前って呼んでくれた!
 嬉しくなっちゃって思わず泣いちゃって、でも虎徹と友恵は笑わずに、優しく抱きしめてくれた。とても暖かかった。”

“最近私が友恵と楓を独占していたからか虎徹が拗ねちゃった。
 やっぱり家族水入らずが良いよね、って言ったら三人は怒ってくれた。虎徹が、お前は友達であり家族だからそういう事は言うな、って言ってくれて、泣いちゃった。
 後で友恵に聞いたんだけど、虎徹は、私が遊んでくれないから拗ねてたみたい。”

“友恵の容態が良くないみたい。でも私たちに心配させないために笑ってた。
 私も笑って返したけど、本当は泣きたかった。”

“今日、友恵が死んだ。容態が急変したらしい。NEXTで死に目を見ることも叶わなかった。
 虎徹が心配だ。”





“大ニュース、虎徹がアポロンメディアに移籍した!
 ワイルドタイガーはニューヒーローとバディを組むんだって! ニューヒーローはどんな人だろう?”


“今日、虎徹に連れられて初めてトレーニングルームに行った。
 みんな良い人ばっかりで、私なんかの友達になってくれた。
 友恵も喜んでくれるかな?”

“たまたまマーベリックさんの心を見てしまった。彼がバーナビー君のご両親を殺しただなんて信じられない。私はどうしたら良い?”

“私は弱い。バーナビー君を助けたいのに、心が見えることを知られるのが怖い。
 私はヒーロー失格だ。”



「あれ……?」

 涙が止まらなかった。


『オリオンスター! 犯人がどこにいるか探しなさい!』
「犯人……犯人?」

 犯人とは誰の事だ。


 そこで、全てを思い出した。


「信じてくれよ!」

「私は信じるよ!」


「オリオンスター!?」
「何であんたがそいつを庇うのよ!?」

「だって、ワイルドタイガーは、虎徹は……私の友達だから!」
「名前……!」


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