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- ナノ -

▼帰る方法

「名前!」

 バーナビーがこちらの世界に来た次の日。未だ寝ている彼を起こさぬよう、甲板で名前がバーナビーの武勇伝を船長らに聞かせていた時。
 彼女の名を叫んで船室の戸を開けたのは疲労でぐっすりと寝ていたバーナビーだった。

 起きたら知らない場所で寝かされていたのだ。寝る前の出来事が夢だったのでは、と扉を開けて一刻も早く名前の存在を確かめたかった。
 彼を見た名前は花笑みを浮かべて彼の元へと急ぐ。彼女を見て、寝る前の出来事が夢ではなかったのだと、バーナビーは胸を撫でおろした。

「バーナビーよく眠れた? ただの疲労らしいけど、どこか調子が悪かったら遠慮なく彼に言ってね、お医者さんなの」
「彼……タヌキ?」
「俺はタヌキじゃねえ! トナカイだ!!」
「? そうでしたか、それは失礼。……喋るトナカイとは、この世界は随分ファンシーなんですね」
「ふふ、私も最初びっくりしちゃった」

 二人で笑い合っているとクルーたちの視線が彼に向いていることに気が付いた。
 挨拶もなしに彼女と抱き合って、その上疲労とはいえ勝手に寝てしまうなんて失礼に値する。彼女の知り合いだからと言って謝らない訳にはいかない。

「先日は取り乱した上に寝てしまって、すみませんでした。僕はバーナビー・ブルックスJr。名前と同じ世界から、彼女を迎えに来ました」
「知ってるぜ! キングオブヒーローなんだろ?」
「ええ、よく知ってますね」
「名前に聞いたんだ!」
「ヒーローの口から直接武勇伝を聞かせてくれよ!」

 ルフィとウソップは目を輝かせながら、先ほどまで聞いていた彼の武勇伝を思い返していた。
 時には瓦礫に押し潰されそうになった少女を電光石火で救い、誰にも捕えられなかった所在転換のNEXT犯罪者を単独で確保したり、両親の仇と思われていた重犯罪者との真っ向からの勝負、語る側も手に汗握る話ばかりだ。

 しかしそんな時間は、もうない。バーナビーも、名前も、自分たちの世界へ帰らねばならない。
 シュテルンビルトにはキングオブヒーローと女神の帰りを待っている人々が沢山いるのだ。

「名前、名残惜しいけどさようならね」

 ナミの言葉に皆一様に名前の帰りを惜しむ。チョッパーやサンジに至っては涙を流している。
 すべての状況を察したバーナビーは自分の置かれている立場を理解し、その身を強張らせる。

「うん。みんな、今までありがとう。私みんなの事忘れない」

 名前の涙が感動的な別れを演出しているが、それとは対照的にバーナビーの表情がよろしくない。
 悪いことをした子供が、いつ叱られるかと怯えている様な、緊張している状態だった。
 いつもと違う彼の様子に気づいていたが、些細なものだろうと名前は気にせずに言う。

「それでバーナビー、どうやったら私たちは帰れるの?」
「……」
「……?」
「……」
「えっと、その……まさか、帰り方、分らないの?」
「とにかく貴女の許へ行くために必死でしたから、その後のことは一切考えていませんでした」

「えええええぇっ!!?」

 ばつが悪そうな顔をした彼以外、船上にいた全員の声が辺り一帯に響いた。

「お前それ来た意味あんのかよ!」
「異世界迷子が二人に増えたのね」
「じゃあまだ名前ちゃんと一緒にいられるのか!」

 上からゾロ、ロビン、サンジの三人。特にサンジの言葉に、ルフィたちは顔を輝かせた。
 名前とまだ冒険が出来る。しかも今度はキングオブヒーローも一緒にときたら喜ばない訳がない。

 三人の言葉にバーナビは自分の不甲斐なさを改めて認識した。名前のいる世界に来ても帰る方法が分からなければ来た意味がない。

「で、でもそれだけ私の事を心配してくれてたんだよね? ありがとう、バーナビー」

 しゅん、と落ち込む彼を見た名前が慌ててフォローに入る。別名女神の微笑みとも称されるその笑顔に、彼は救われた気がした。

「だったらバニー、お前も俺の仲間になれよ!」

 ルフィが満面の笑みでバーナビーに手を差し出す。名前が信頼を寄せているのだから悪い人たちではないだろうと、彼はその手を握った。

「まあ、元の世界に帰れるまでですけど、彼女共々お世話になります」



「……ところで、ここは船の上のようですが漁師か何か何ですか?」
「いいえ。ここは海賊船で、あたしたちは海賊よ」
「か、海賊!?」


「俺はキャプテ〜ン・ウソップ、よろしくな! キングオブヒーロー!」
「あたしはナミ。航海士兼財布役ね」
「ゾロだ。剣士をしている」
「トニートニー・チョッパーだ! 船医だぞ!」
「俺はサンジ、コックだ」
「私はロビン……考古学者よ」
「んで、俺が船長! モンキー・D・ルフィだ! よろしくなバニー!!」

「元の世界へ帰るまでの間ですが、よろしくお願いします」

「うっしっしっ。新しい仲間だ、宴会だぁ!」


 その日は真昼間から彼を歓迎する宴会が執り行われた。新たに麦わらの一味へと加入した彼は、愛しい恋人の隣に腰を下ろし、互いにジョッキを持っていない方の手を絡め合った。

「あ、一つ言っておきますけど僕はバニーじゃなくてバーナビーですから!」


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