▼ウォーターセブン編 ・W7 「バーナビー、私たちも情報を集めに行きましょ」 「はい」 ナミに渡された金を財布に入れ二人はウォーターセブンの街中へ繰り出した。 やはりと言うべきか情報収集においてバーナビーの右にでる者はいない。特にド天然の名前などは彼の足元にも及ばない。 日常会話の如くさらっと知りたい情報を自然に、スマートに聞き出してゆくバーナビーに名前はただただ頭が下がる思いだ。 「こうして二人で出掛けるのって凄く久しぶりね」 「そうですね」 「お二人さん美男美女だね! 私は雑誌の記者なんだが今この街に訪れた美しいカップルの特集をしていて写真を撮らせてくれないかね?」 「え、どうしようバーナビー……」 「すみませんが僕たちは急いでいて」 「はいポーズ!」 「うっ!」 「体が勝手に!」 職業病と言うべきか、顔出しヒーローとモデルヒーローの両名は向けられたレンズに対し自然とポーズを決めていた。 時には互いに背を向け合い、時には互いの息がかかりそうなほど近く。 「……」 「……結局撮られてしまいましたね」 ・ロビン離脱 「ロビン、どこへ行くの? みんなの所へ戻りましょう?」 「……異世界から来た貴女たちには分らないことよ。この世界でのことに関わらない方がいい」 「っ!」 「……」 ロビンの口から出てきた拒絶の言葉に名前は言葉を失う。 スカイハイ同様他人を疑うことを知らない性格の彼女は今まで信頼していたロビンに拒絶されたことに多大なショックを受けた。 口元に手を当て今にも泣き出さんとする彼女を、バーナビーはすぐさま抱き留める。 悲哀の表情を浮かべる彼女に、ロビンも少なからず動揺しているようでこれ以上彼女を見ないように目を伏せた。 「……っ、そういうことだから。さようなら」 踵を返し歩き出したロビンに、バーナビーが声をかけた。最悪、聞こえなくてもいい。 「確かに僕らは余所者です。ですが、そんな僕でも言えることはあります。……闇は、光が照らしてくれる。貴女が闇の中を生きていると言うのなら彼らがその道を明るく照らしてくれるはずです。付き合いの浅い僕でも、彼らの暖かさは分かる」 復讐に生きていた薄暗い二十年間。復讐を終えた彼を照らしてくれたのは相棒と女神、そして他のヒーローたち。 世界はこんなにも光で満ちていると、腕の中にいる愛しい人が教えてくれた。 麦わらの一味はきっと彼女の光となってくれる。そしていずれは彼女自身が光になる日が来るといい。そう、思いを込めて。 ・ロビンの本音 ロビンの本音を知った名前は大きな瞳からこれでもかと涙を零す。 「あたしたちのため……」 「名前落ち着いて」 「うう、だってぇ……!」 あの時の拒絶は名前とバーナビーを思っての言葉だったのだと分かったから。ロビンの優しさが目頭を熱くさせる。 拭っても拭っても、涙は重力に従って彼女の頬を滑り落ちる。余り擦ると腫れてしまう、バーナビーは目元に走る手を掴むと、その目尻に口を寄せ溜まった涙を吸い上げた。 「(しょっぱい……当然か)」 「あんたらこんな時にいちゃつくな!」 「あうっ」 「……痛いです」 ナミのチョップを食らった二人。その痛みで名前の涙は引っ込む。バーナビーも小さく舌打ちはするものの、大人しくなった。 話し合いの結果、海列車が出発するまで時間があるためナミはそちらへ、残りの者たちはCP9に飛ばされたルフィとゾロを捜索することとなった。 名前とバーナビーは船大工たちの案内で町全体を見渡せる場所まで移動する。 避難が済んだ町は昨日までの活気が嘘のように静かだ。 「名前」 「なぁに? バーナビー」 「……こちらの世界の人たちも暖かいですね」 「うん! 私こっちの人たちも大好き」 満面の笑みを浮かべる名前は、しばらくして表情を真剣なものに変える。バーナビーはその顔を知っている、ヒーローとして、マリアとしての表情。 NEXTを発動させウエストポーチから取り出したあらゆる種類の種子を強制的に成長させ、ルフィたちを探させる。 バーナビーも能力を使えば視力が各段に上昇するのだが彼の能力にはリミットがあるため無駄打ちは出来ない。今は名前のNEXTだけが頼りだ。 十分ほど経った頃、戻ってきたナミが合流する。未だに二人は見つかっていない。 無人の町を植物の蔓が伸び這い蹲り、自由に動き回る様にはある種の恐ろしささえ感じてしまう。まるで町を支配されたみたいだ。 「……いた!」 伸ばした蔓の先が探し人に突き当たる。ルフィは大きな建物と建物の隙間に挟まれており、ゾロは違う建物の煙突に頭から嵌っていた。 その場所を名前が指差せばナミは屋根を走ってルフィの下へ、チョッパーはゾロの下へ急ぐ。 そして今までのことをありのまま彼らへ伝えた。ロビンがどんな思いで今海列車へ乗っているのかも。 彼女を助けに行こうと志気が上がるも、建物はルフィたちを放さない。 「やれやれ」 ふう、と息を吐いたバーナビーは能力を発動させるとルフィが挟まっている建物まで跳躍する。 「ばーばびー!」 「まったく。壊すのは僕の仕事じゃないんですけど、ね!」 体を青く発光させているバーナビーは口元に弧を描くと百倍になった腕の力で左右の建物を開くように壊した。 「すまねぇ、助かった!」 「このまま彼も助けます! 大人しくしていて下さい!」 そのままルフィを片手に抱えると、崩れてゆく建物を蹴りつけ、今度はゾロが嵌っている屋根まで飛び移る。 「ドクター危ないので退いていて。……少し痛いかもしれませんが我慢して下さいね。……はあっ!」 得意の蹴り技でゾロの嵌っている煙突を崩す。造船所では彼は一体何者なんだと騒いでいるが、バーナビーらの耳に届く前に風音でかき消された。 ゾロが抜け出したのを確認し、名前は能力で縒り合わせた太く丈夫な蔓を使い、ナミと共に彼らのいる屋根まで移った。 刹那、造船島にいる大工たちの一際大きな声が響いた。 「アクア・ラグナだー!!」 「っ!」 島を飲み込んでしまいそうな高波が六人を襲おうとした瞬間、名前は能力で蔓を使い、その場にいた六人を造船所へと運び上げた。 間一髪、波に引き吊り込まれることはなく、避難できた。しかしその恐ろしさは計り知れず、ナミは体を震わせチョッパーはゾロに掴まったまま気絶していた。 名前もまたアクア・ラグナの恐ろしさを感じていた。自然災害だからこそ人間の小ささを思い知らされる。 バーナビーに手を伸ばせば彼はその手を優しく握ってくれる。未だ能力が続いているとは思えない優しい力加減だ。 「おい、あいつ青く光ってるぞ」 「そういやこのねーちゃんも光ってたな……」 高波から逃げるのに必死だったから気付かなかったが、体が青く発光していることに大工たちが気づく。それにつられるようにナミも彼を見やった。 「そう言えばバーナビーのその体、名前と同じ……」 「ええ、バーナビーも私と同じNEXTなの」 「“ハンドレッドパワー”。僕は五分間だけ身体能力を百倍にする事が出来るんです……そろそろリミットですね」 そう言うとバーナビーの体から光は消え、普通の人間へと戻った。 いつものルフィならばその説明だけでも眼を輝かせている所だが、今はそんな暇はない。 「船を貸してくれ!」 「仲間が待ってんだ! 邪魔すんなぁっ!!」 |