▼親方空からバーナビーが! 空島から青海へと降りてきた麦わらの一味が、次の島へ向かっている途中のこと。 急に現れた青年にクルーたちは敵襲かと各々戦闘態勢を取る。 青年は赤いライダージャケットにジーンズにブーツと、街中では自然だが海賊には珍しい格好をしている。顔立ちは端正で、普通の女性ならば余裕で見惚れるレベルだろう。 海賊船に堂々と現れたのだ、何か目的があるとみて間違いない。その証拠に青年は何かを探すように周りを見渡した。 青年を見て一番に反応したのは他でもない名前だった。 「バーナビー!」 「名前!!」 彼女は彼のものと思わしき名前を叫び、彼もまた彼女の名前を叫ぶ。弾かれたようにその場を走り出し、二人は抱きしめ合った。 「名前、やっと見つけた」 「バーナビー、会いたかった」 「無事でよかった。心配したんですよ」 二人の様子を見たクルーたちはそれを見てすべてを悟った。 彼女にとってこの世界は異世界であり知識もなければ知り合いもいない。そんな状況で彼女は知り合いを見つけたということは、彼は、彼女の元いた世界から来た人間に違いない。 今までに見たことのない、心の底から安心しきった名前の表情。行動派のルフィでさえ大人しく彼らを見守っていた。 「……貴方が目の前で消えて、貴女をどこにやったのか聞き出す前に犯人はルナティックに焼き殺されてしまって……」 「ルナティックに……そう……」 「それからはみんなで情報をかき集めて……ファイヤーエンブレムは寝る間も惜しんで貴女を取り戻す方法を探しています。折紙先輩はネガティブに拍車がかかって、スカイハイさんも自分が不甲斐ないからだと終始落ち込みっぱなし。ドラゴンキッドは見るからに食欲が落ちてますしブルーローズは明らかに寝不足です。ロックバイソンさんと虎徹さんも不器用ながらも情報をかき集めて……みんな心配しています」 「みんな……私のために……」 いつもの名前ならばルナティックに焼かれ死んだ犯人の最期を悲しむところだが、それよりも、仲間たちに愛されているのだという事実の方が嬉しかった。 「僕も心配しました。司法局に登録してあるNEXTから似たような能力者を探し出すのに二週間もかかった」 「そんなに……心配かけてごめんね」 「本当に無事でよか……た……」 小さくなってゆくバーナービーの声。言い終えると同時に、名前に寄りかかるようにして倒れこんだ。それから一拍おいて名前が声を荒げる。 「キャーッ! バーナビーがっ、チョッパー、バーナビーが死んじゃっ……!」 「落ち着け名前! 死んでねえか落ち着けって! ……大丈夫、外傷もないし、多分疲れて寝てるだけだ」 「そ、そうなの? よかった……」 腰が抜けたように彼を支えたままその場に腰を下ろす名前。チョッパーの診断通り彼はただ眠っているだけで外傷も内傷も見られない。 よほど疲弊してていたのだろう、眼鏡越しにでも隈がはっきりと見えている。他の誰よりも寝る間も惜しんで情報をかき集めていた証拠だ。 それこそ名前と再会出来たことに安堵し、周りの騒がしさも気にせず寝れるほどに。 それだけ心配されていたのだと、愛されているのだと実感した途端、名前の瞳から涙が溢れた。 「おい名前どうした!? どっかいてぇのか!?」 ルフィの言葉に、静かに首を振る。これは痛みから来るものではなく、安堵から来る涙だ。 知らない世界に一人ぼっちでいた不安と恐怖。この世界にとって名前はイレギュラーであり、常に一人きりだった。 それは仲間だと言ってくれる人たちがいようとも彼女の心の隅に常に居座っていた。 そして元いた世界の、しかも愛しい人と、ようやく会えたことによる心緩びが涙腺を弱めたのだ。 「ありがとう、バーナビー」 耳朶をくすぐる寝息が心地よい。名前はバーナービーの背をゆっくりと撫でてやる。 他のクルーは心穏やかにその様子を眺めていた。 「なあこいつ名前の友達か?」 「うん。バーナビー・ブルックスJr……こっち風に言うとブルックス・バーナビーJr、かな。バーナビーも私と同じ世界でヒーローをしてて、私がこっちの世界に来てから彼なりに私を元の世界に帰す方法を調べてくれたの」 「ということはその方法が見つかったからこっちに来たってことね」 「つまり名前ちゃんはもう自分の世界に帰るのか!?」 「うん、そうなるのかな」 ロビンとサンジの言葉に肯定する。特にサンジはバーナビーに良い顔をしていない。 バーナビーがNEXTを探し出してこちらの世界に来たということは、そういうことだろう。聡明な彼が何の策もなく異世界に来るとは考えづらい。 「名前帰っちまうのか!?」 「もう、最初からそういう約束だったでしょ」 「ごめんねルフィ。でも私は私のいるべき世界に帰らないと……シュテルンビルトの人たちも待ってるだろうし……」 「そっか……本当はずっといて欲しいけど、仕方ねえよな」 彼女には彼女のいるべき世界がある。さすがのルフィでも無理強いするわけにはいかない。 とりあえずこの場で寝かせるわけにもいかないので人型へと変形したチョッパーが、バーナビーを船室へと運ぶ。 「バーナビーが起きるまでは彼共々お世話になっちゃうけどね」 「なぁ名前、あいつも強いのか?」 「ええ。なんたってヒーローの中のヒーロー、キングオブヒーローだもの!」 「キングオブヒーロー!?」 「あいつすげーんだな!!」 名前の言葉にルフィ、ウソップ、チョッパーの三人は瞳を爛々と輝かせる。 ただでさえ名前がヒーローだと言った時は四六時中武勇伝を強請っていたのだ。バーナビーの時はもっと凄いことになるだろう。 名前は、バーナビーが尊敬されているということを自分の事のように喜んでいた。 「詳しいことは本人が起きたら聞いてあげて? あっ、でも起きたらすぐ帰っちゃうのかな」 「俺は今聞きたいんだ! キングオブヒーローの伝説を聞かせてくれ!!」 「そう? じゃあ少しだけね」 ルフィにせがまれ、名前は嬉しそうにバーナビーの武勇伝を聞かせるのだった。 |