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▼7.誰が作った?

 初日の午前練習の終わる時間を見計らい出来上がった昼食を皿に盛り付けカウンターに乗せていくと丁度タイミング良く選手たちが次々と食堂に入ってきて、トレーにそれぞれを乗せてテーブルに着いた。
 早河さんは風丸くんたちに囲まれ楽しげに会話をしながら入ってきて他の選手たちと同じように昼食を持って行く。
 秋さんと冬花さんと目金くんは少しだけ後片付けをしていたらしく選手たちとは遅れて食堂に来た。

「うんめー!」
「美味いッスー! おかわりあるッスかね!」
「おかわりはあるから、ゆっくり落ち着いて食べなさい」

 練習で疲れたのか消費した分を補うよう勢い良く掻き込む子たちにゆっくり沢山噛むよう促す。みんな私の言葉に頷いて沢山噛むことを意識して実行している。ただそこまでは良かったのだ。
 壁山くんがお代わりの催促をしてきた頃、今まで侍らせていた選手と和やかに食事をしていた早河さんが口を開いた。

「みんなお昼ごはんおいしい? みんなのことを思いながらアタシが作ったんだよぉ!」
「そっか。楓は料理が上手いな!」

 語尾にハートが付きそうなくらい甘ったるい早河さんの発言に、円堂くんだけではなく他の選手たちも彼女が昼食を作ったのだと信じてしまっていた。
 私の隣で文句を言いたそうに眉間にしわを作る春奈ちゃん。今日の昼食は私と春奈ちゃんの二人だけで作ったのだから当然だ。

 なるほどこれが彼女の手口というわけか。春奈ちゃんはそのことを知っているのか耐えるように下唇をかみ締めている。
 秋さんたちも私たちが作ったものだと分かっていたのだけど男たちがあまりにも早河さんを擁護するので何も言えなくなり、困ったように私を見つめている。

「……はあ、この昼食は私と春奈ちゃんが作ったのよ、早河さんは何一つ手伝っていない」
「コーチ、何を言い出すんですか!」
「そうですよ! 楓さんが嘘付くわけないじゃないですか!」

 事実を告げているだけなのにそれを欠片も信じようともしない子たち。その目には早河さんしか見ておらず他の何にも目を向けていなかった。
 これ以上言っても無駄であることを感じ、私は説明も何もせず春奈ちゃんを庇うよう立てば鬼道くんが立ち上がった。みんなの注目を浴びながら食べ終えた食器をカウンターに置き、春奈ちゃんに近づく。

「春奈、コーチの言っていることは本当なのか?」
「お兄ちゃん……本当だよ。私と名前さんで作ったの」
「……そうか。美味かったぞ」

 選手たちには見えない角度で早河さんに睨まれている春奈ちゃんが眉尻を下げて私を見た。大丈夫だよという意味をこめて彼女に笑みを向ければ安堵の表情を浮かべる。
 そして鬼道くんの質問にはっきりと答えた。春奈ちゃんの自信に溢れた言葉に鬼道くんは口角を上げ、彼女の頭を撫でた。その光景があまりにも微笑ましく、同時に事務所にいるであろうお兄ちゃんを思い出した。

 鬼道くんが食堂から出て行ったのを見送って、待ってましたと言わんばかりに早河さんが口を開く。

「ぐすっ、コーチも春奈ちゃんもどうして嘘吐くの? アタシを困らせてそんなに楽しい?」
「嘘じゃありません!」

 手で顔を覆いながら泣いているような声色で、まるで私たちが嘘を突き通しているような物言い。
 今までは秋さんたちと同様に何も言えなかったであろう春奈ちゃんが強く言い返してくれるがそれも無駄。選手の半数は私たちが嘘を吐いていると信じて止まないようで、特に風丸くん豪炎寺くん虎丸くんは彼女を囲み私たちを睨みつける。

「そういえばコーチ、何で楓さん以外のマネージャーはコーチとタメ口なんですか、楓さんは差別ですか」
「私は差別をしているつもりはないわ、挨拶をしているとき早河さんがいなかっただけで」
「楓はマネージャーとしての仕事をしていたんだから仕方ないだろう!」

 ええ、選手たちに黄色い声援を送ることがマネージャーとしての仕事と言うならばね、と喉まで出掛かった言葉を飲み込む。その代わりに早河さんや選手たちも私に敬語を使いたくなければ要らないのよと微笑み返せば明らかに機嫌が悪くなった。
 別に彼らの機嫌取りをするためにここにいる訳ではないので彼らに嫌われようと恨まれようと気にしない。悪魔使いがただの人間に負けるはずもない。
 私に何を言っても埒が明かないとようやく理解したのか、豪炎寺くんが首を振る。

「楓行こう。こいつらは話にならない」
「……うん。ごめんね」

 あからさまに泣く演技をする早河さんを連れて早河擁護班は食堂から去っていった。ちなみに昼食は綺麗に平らげられている。
 擁護班がいなくなり食堂には私と、早河さん以外のマネージャー、それと選手が数名残されており私を含めてみんな呆れた顔をしていた。選手で残っているのはヒロトとリュウジを始めとして、一年生では栗松くんに壁山くんと木暮くん、意外なところで不動くんも残っている。

「貴方たちは早河さんに付いていかなくて良かったの?」
「名前は知ってるでしょ、俺があの子苦手なの!」
「俺も緑川と同じだよ」

 リュウジとヒロトの言葉に同意するように立向居くんを除く一年生組が強く頷いた。

「それにしても不動くんが残ってるって何か不思議」
「別に。俺はただ飯のお代わりもらいてーだけだよ。それにあいつが昼飯作る時間なんて無かっただろ」
「そうなの?」
「確かにそうでヤンス!」

 私は春奈ちゃんと宿舎にいたので外での様子は知らない。みんなの話によれば常に選手たちの目の届く場所におり、仕事らしい仕事もタオルやドリンクを配る程度。
 そんなことも解らないなんて、早河さんを擁護している人はどれだけ盲目なのかしら。しかし恋は盲目では片付けられない点がいくつかある、あまりに周りが見えていなさすぎだ。何か裏がありそうね。


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