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▼5.練習開始の日

 アジア予選に向けての練習初日。選手たちがグラウンドに集まり久遠監督とコーチである私が前へ出て選手たちを一瞥する。

「今の貴方たちでは世界に通用しない」

 私の言葉に選手たち全員が目を見開き疑問の声を上げる。その上久遠監督からは吹けば飛んでいく紙切れ呼ばわり。
 日本の代表としてこの場に立っているにも関わらず、ぼろくそに言われていることに苛立ちを覚えている選手もいる。
 けれども粉うことなき事実なのだ。ゴーグルで若干分かりにくいが、多分腑に落ちないといった表情の鬼道くんが声を荒げた。

「なぜそんなことがわかるんですか!」
「芥辺は今まで世界のサッカーを見てきた。その芥辺がそう言っているんだ」

 確かに今のイナズマジャパンが世界に出ても通用しないとは私が言ったことだし、久遠監督も重々承知のことだった。

 私は今までマネジメントの依頼を受けてきた。それは様々なスポーツチームからの依頼でありもちろんサッカーも含まれている。
 その仕事は海外が多く数カ国ほどマネジメントをしてきたがどのチームもレベルが高く、技術力も協調性も全てにおいて問題なし。
 日本だと帝国学園も私が介入していたけれど、イナズマジャパンはサッカーのレベルで言えば今まで見てきた中でダントツの最下位。
 技術力もまだまだ荒いし基礎体力も負けている。何より協調性のかけらも無い。このままでは初戦敗退は目に見えている。

 このことを言うと選手たちの士気に関わるので喉の奥に押し込んで、ただ監督の次の言葉を待つ選手たちを静観した。

「私たちはそんなお前達を一から鍛え直すよう頼まれたの」

 我々のやり方に納得できない者もいるだろうけれど口答えは許されないこと。過去の実績に関係なく、試合に出たければ実力でレギュラーの座を勝ち取れと告げる。
 私たちの言う通りに実行することだけを考えていればそれだけでいい、と自ら憎まれ役を買って出る久遠監督。そんな監督を見ながら溜め息を吐いたら軽く睨まれてしまった。おっと失礼、気を取り直して選手たちの方へ歩いて行き口を開く。

「これが今日の練習メニューよ。意見のある子は後で私の所へ来なさい」

 本日分のメニューが書かれた紙の束を鬼道くんに手渡し踵を返す。選手たちは気にくわない様子でも一応練習を開始した。

 タオルやドリンクの用意をする他のマネージャーを他所に一人黄色い声援を飛ばしている早河さんに声を掛ける。

「みんながんばれぇー!」

「早河さんさん、応援するのはいいけれどマネージャー業もしっかりね」
「アタシちゃんと仕事してますよぅ!」

 どうだかね、声には出さずに視線を元に戻して私は一人マネージャーたちのいるベンチへと足を運ぶ。外の水道で作ったドリンクをクーラーボックスに入れていた春奈ちゃんがこちらに気付いた。冬花さんに仕事を教えていた秋さんも手を止めて私に声をかけてくれる。

「あ、芥辺コーチ。どうしました?」
「名前でいいよ。年齢も秋さんと同じだから敬語もいらない」

 三人に笑いかければ秋さんたちも可愛らしい笑顔で返してくれる。早河さんを含めマネージャーは可愛らしい子が多い。
 今後私もマネージャー業の手伝いをすることと、何かあったらすぐ私に言ってほしいということを三人に伝える。
 そういえば目金くんもマネージャーの仕事をしているそうで、グラウンド全体がよく見える位置でビデオを回していた。彼は今私の目の届かない所を記録するという重要な仕事をしているので話しかけず、私は本題に入る。

「食事の献立を考えたいから誰か手伝ってくれない?」
「じゃあ私がお手伝いします!」
「春奈ちゃんありがとう。助かるわ」

 久遠監督が選手たちに細かく指示を出す声をバックに、気合十分といった春奈ちゃんを連れて宿舎へ入っていく。


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