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▼名前ライフ


・第一回レコーディングテストのペアとの打ち合わせ


「名字さん、今日の放課後レコーディングテストの打ち合わせしないか?」
「うん。いいよ」


 その儚さから高嶺の花と噂されることも多い。
 初回のレコーディングテストのペアとなった男子との打ち合わせは恙なく進行する。
 作曲コースの彼が好きなように曲を作り、それに名前が作詞するという段取りで落ち着いた。


「あ、そうだ。君に一つ言っておくことがあるんだけど」
「何だい? 改まって」
「わたし作詞が苦手だから期待はしないでね」
「そんなことか。最初は誰でも素人さ。気にせず名字さんの言葉を書くと良い」

 この男子は何を勘違いしているのか

 都合よく勘違いしている事に気づいた名前は敢えて訂正しないことで保身に走った。
 そもそも作詞だなんてポエマーのような真似は名前にとって恥ずかしいこと極まりない作業である。

 二日後、出来上がった楽譜のコピーに書かれた歌詞を見た彼はどう反応すべきか考えあぐねた。
 それもそのはず、彼女の書いた詞は歌詞と呼ぶにはあまりに幼稚すぎ、ドーナツ屋のCMソングと言われれば妙にしっくりくる。

 オールドファッション、エンゼルフレンチ、チョコファッション、フレンチクルーラー、ポン・デ・リング。

 五線譜の下には某ドーナツチェーン店で販売しているドーナツの種類が網羅されていた。とどのつまり、ひたすらドーナツの名前を羅列する曲が完成したのである。
 これがまたポップな曲調に妙にマッチングしているので、ある種の才能を感じざるを得ない。
 元々は彼女のイメージに合わせてバラードなどの大人し目の曲を作るつもりだったが、作詞に自信がないと言っていたのを思い出し、作詞しやすい明るめの曲を書いていたのが功を奏した。
 入学したてで素人に毛が生えた程度の人間に人の心を動かす詞を書けと言う方が難しいので、初回のテストはこんなものだろうと、無理やり自分を納得させる男子生徒であった。

「ドーナツ、好きなんだね」
「うん、大好き」

 ふわりと微笑む名前はまるで天使のようで、自分に言われていないと分っていても作曲担当の彼は頬が熱くなるのを自覚する。

「じゃあちょっと歌ってみようか」

 歌詞が付いて初めての歌唱。
 ドーナツの名前を読み上げていくその声は実に楽しそうで、本当にドーナツが好きなのだと聞く方も楽しくなっていく。

「(ドーナツ食べたい……)」
「名字さん涎よだれ!」

 彼の中の名前が、儚いイメージから食いしん坊のイメージに移行しつつあった。



 その数日後に行われた初回のレコーディングテスト。
 他の生徒たちが恋愛ソングや応援曲を歌う中、名前はあのドーナツソングを歌ってみせた。
 歌唱力は群を抜いていたがその曲とのギャップに当然他の生徒たちは拍子抜けてしまう。


 初回のレコーディングテストは曲と歌唱力の評価は良かったものの作詞の評価は著しく低い結果となってしまった。

「こういう曲歌うアイドルだって中にはいるよ」
「ただドーナツの名前羅列してるだけ」


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