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▼名前ライフ

008

 来栖に連れてこられた食堂は思いの外賑わっており、あまり人込みを好まない名前にとっては少し億劫な空間だ。
 だからといって今更断れる状況でもなく、なるべく静かな席で在ることを祈った。

「おーい、面白い奴連れてきたぜ」





「ナマエさん!?」

「……何のことかな? ナマエ?」

「いえ、あの、私の聞いていたラジオのパーソナリティの方に声がよく似ていたので……すみません」
「謝らないでいいよ。この前も一ノ瀬くんに同じこと聞かれたし……そんなに似てるの?」
「似てるってものじゃないです! ナマエさんそのものです!」

 名前に詰め寄りナマエが如何に素晴らしいパーソナリティであったかを熱弁する春歌。いっそ白状してしまえばこの羞恥から解放され楽になれるのに、と心内で溜め息を吐くがそれが出来ないのも全て早乙女のせいである。
 それにしてもマイクを通し電波を経てラジオから流れてくる声と素の声がそんなにも一致しているだなんて最近の電化製品は侮れないなぁと感心する名前であった。

「(それともこの子の耳が良いのかな?)」

 そうなると彼女は良い音楽家になるだろうなぁとまた感心してしまう名前。

 どこまで誤魔化しが効くかは分からないが出来るところまでやるしかないのが現状だ。

「おばあちゃんの家にいた時の夜はそのラジオを聞くのが毎週の楽しみで……」
「それって“無責任ラジオ”ですか?」

 サンドウィッチと野菜ジュースの乗ったトレイを持って戻ってきたトキヤが話に入ってくる。
 自身の愛聴していたラジオの話が聞こえてしまったのだから無理からぬこと。

「はい! 一ノ瀬さんも知っているんですか?」
「ええ。ポッドキャストで聞いてました」
「そのラジオなら俺様もポッドキャストで聞いてたぜ。クラスで流行ってたから試しに聞いたらこれがまた面白くてさ」
「ボクも翔ちゃんと一緒に聞いてます!」

 どうやら春歌、トキヤ、来栖、四ノ宮は無責任ラジオの愛聴者だったらしくどの回のどのナマエが素晴らしかったなどを嬉々として語らい始めた。
 一方で一十木、神宮寺、渋谷、聖川の四人は初めて聞く名に首をかしげている。

 アルバイト感覚でやっていた一地方ラジオがここまで人気だとは思っていなかった名前は内心驚いていた。

「私、早乙女学園を受験するって言った時、先生には無理だって言われてて、両親とお祖母ちゃんしか応援してくれる人がいなくて……そんな時たまたま無責任ラジオで私のハガキを読んで頂いて、ナマエさんが大丈夫だって、絶対受かるって言ってくれて、わた、私……」
「わわっ。春歌ちゃん、泣かないで」
「ごめ、んなさい……でも、ナマエさんの言葉が凄く嬉しくて……」

 当時のことを思い出したのかぽろぽろと涙を零す春歌に、名前は慌ててハンカチを差し出す。
 初めて身内以外で進路を応援してくれる人がいたこと。それが例えリップサービスだとしても当時の春歌には心の支えとなっていたのだ。
 本人に大したことを言った自覚はなくても彼女の影響力は大きかった。無責任と銘打ってはいたが彼女の言葉に一喜一憂している人がいるという事実は重い。
 当の本人はアルバイト感覚でやっていたラジオなのに、ここまで愛してくれる人がいるのだと実感すると有り難みが違う

「七海がそこまで言うなんてそのナマエって人凄いんだね! 俺も聞きたくなっちゃった!」
「あのイッチーがわざわざネットから落としてまで聞くくらいだからねぇ。オレも興味が湧いたよ」
「アタシもポッドキャスト聞いてみようかしら」
「そうだな。」

 ポッドキャストの平均ダウンロード数ランキング地方ラジオ部門の一位を取るくらいには有名だったのだが、名前は知らない。

「もう一度ナマエさんの声が聞きたいです……」

「七海さん知らないのですか? ナマエさん、今は全国区でラジオ番組をされてますよ」
「ええっ! そうなんですか!?」
「毎週火曜と金曜の十一時から、“おやすみラジオ”という番組タイトルで、概ね無責任ラジオと似たような感じです」
「そうだったんですか……絶対に聞かなければ……! 教えて下さってありがとうございます!」
「いえ。同じナマエさんのファンですから」



「名字さんも今度一緒に聞きましょう」
「……考えておくね」

 自分が出演している生放送のラジオ番組を自分で聞くなんて出来るわけがない。



「現在は別の方がパーソナリティを引き継いではいますがやはりナマエさんではないと今一つ楽しめませんでしたね」

「ナマエの無責任ラジオ、面白かったのに何で辞めちまったんだろうな」


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