▼傍観少女じゃいられない04 国立雄英高校の受験日当日、三百人を有に超える人数の受験生が講堂でヒーロー科実技試験の説明を受けていた。勿論私もエキストラとしてその他大勢に溶け込んで説明役であるプレゼント・マイクの言葉を聞いている。 「今日は俺のライヴにようこそー! エヴィバディセイヘイ!!」 夢ある若人の人生が決まる大切な一日である。ぴりぴりとした雰囲気の中彼に言葉を返す人物は一人としていない。 「こいつぁシヴィー! 受験生のリスナー! 実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!」 手元の用紙に視線を落とす。実技試験は十分間の模擬市街演習となっており、漫画で読んだ通りそれぞれポイントが割り振られた三種類の“仮想敵”をどれだけ多く行動不能にするかというもの。 しかし用紙にはもう一種類の仮想敵が記載されており、その点について主要人物の一人である飯田少年が模範的な挙手の後に質問し、ついでに挙動不審な緑谷少年に注意する。 そういう場面を見るとやはりここが私が前世での購読していた漫画の中のなのだと再認識させられる。 プレゼント・マイクにより四種目の仮想敵はゼロポイントのお邪魔虫のようなギミックであることを補足される。まぁこの討伐ポイントとは別に他の受験者を助けることで獲得出来る救済ポイントなるものも存在するが、私以外の受験生でそれを知っているのは数えるくらいだろう。 「俺からは以上だ! 最後にリスナーへ我が校“校訓”をプレゼントしよう……かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った! 「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者」と!!』 《プレゼント・マイク》は両手を広げ、今までの少々おちゃらけた雰囲気ではなく真剣な顔つきで言い放った。 「”Plus Ultra”! それでは皆、良い受難を!!」 受験生たちは各々の試験会場へと赴いていく。実技入試はポイント制で会場内にいるポイントが割り振られた数種類の仮想敵ロボットをどれだけ倒せるかというフィジカル系“個性”が優位な内容である。一応他の受験生を助けたりした際にレスキューポイントが加算される仕組みになってはいるが公表されていないのでこの試験自体を諦めている受験生は多く見受けられる。 頭脳系や補助系、回復系などヒーローに成れば活躍間違い無しの“個性”までが埋もれていくこの試験内容は、後に主人公の担任となる人間の言葉を借りるならまさに“非合理”だ。しかし私はことの顛末をただ“眺める”だけ。 唐突で勢いの無いスタートの合図に一拍遅れて会場に入っていく受験生に紛れて私も会場に入る。が、仮想敵など倒す気は更々ない。まず探すのは手頃な高層ビルだ。 壁に墨の道を書くことでそこに張り付き歩くことが出来る“壁足”を使い、この試験会場で一番見晴らしの良さそうな高層ビルの屋上から受験生達の様子を伺うことにした。 目算通りこのビルの屋上からでは建物の影になってしまう所を除き会場を一望出来るベストポジションであった。 「ポップコーンとコーラがあれば最高だったね」 そして時折、受験生の上に落ちてゆく瓦礫に向かって筆を真横に引いて宙に一本の線を引いて、遠く離れた先の瓦礫を一刀両断する。全ての物を切り裂く力を持つ筆しらべ、“一閃”である。 ヒーローに成るつもりはさらさらないが他人を見殺しにするほど性根は腐っていないのでね、目の届く範囲くらいは人助けをするさ。 まぁこうも距離が開いているならば誰も私の“個性”だとは思うまいが、念のためレスキューポイントのことを視野に入れて、助けるべき人間は見極めているつもりだ。 第一志望はあくまで普通科であり、ヒーロー科の一般入試を受けたのは記念受験でもなければ本命受験でもない、本当にただの“見学”が目的なのだ。この物語の主人公が敬愛する師から受け継いだ“個性”の初お披露目の瞬間をこの目で見るための。 出来ることならばもっと間近で見たかったのだが余り近づくと彼らと接触する恐れがある。 ヒロインを庇い今朝方師匠から受け継いだ能力を使って巨大仮想敵をぶっ壊す様はまさに圧巻。有名映画のワンシーンにも匹敵する迫力がある。 さて試験も終わったことだし、帰って昨日借りた映画でも観ようかな。 |