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▼傍観少女じゃいられない05

 早起きし入念に準備を整え朝から夕まで映画館に入り浸って出来るだけ多くの本数観るのが前世から変わりない私の休日である。少し前までは社会人であったので気に入った作品は二度三度繰り返し観ていたが今は学生の身、金銭的な問題で一度に留めざるを得えず、
勿論気に入った作品のパンフレットには金銭は惜しまない。

 本当はレイトショーまでいたいのだが高校生になるまで我慢だ。ま、高校生でも駄目だけどね。


 自由登校日であるその日も朝から夕まで映画館に入り浸ってから帰宅すると私宛の郵便物が届いていたと母から手渡されたのは硬い何かによって膨らみが出来ている洋ニダイヤ封筒だった。
 ようやく来たかと料金後納のそれの差出人を見やればやはり雄英高校からで。合否通知が入っているそれに、私よりも母の方がそわそわと落ち着きがない。

 自室に戻り封筒を開ければ中から短い円柱状の機械が出てきて、ホログラムが再生される。普通科の合格通知か、それもとヒーロー科の不合格通知なのか、はたまたその両方なのか雄英高校はさすが国立というだけあって金をかけている。


『ヒーロー科、合格おめでとう!』

「……は?」

 今の私は相当不愉快な顔をしている筈だ。現に不愉快極まりない状況にいるのだから、例えナンバーワンヒーローに合格通達をされたとてそれは私の通いたい学科ではないのだ。

 実技に置いてのポイントも入念に計算していたし、何ならヒーロー科の筆記試験はほぼ白紙で提出したのだから合格する筈がないのだ。なのに、何故。

『何かと忙しい彼の代わりにボクが説明するよ!』

 そう言ってオールマイトと入れ替わるようにして映ったのは確か雄英高校の校長である鼠、名前はとうの昔に忘れた。

 鼠曰く、雄英高校には設立当初より実績制推薦入試制度が存在し日常生活における事件解決貢献実績に応じて先生方が入学を認めるのだという。
 そんな制度見たことも聞いたことない、ということは私というイレギュラーな存在がいることによる不具合が生じているようだ。
 そしてやはりと言うべきか、この世界はとことん私を傍観者では居させてくれないらしい。

 そもそも日常生活での事件においても私はほぼ常に大神の姿で対応していたし大したことはしていない。あの犬が私であるという痕跡を僅かにも残していないので確証などどこにも存在しないはずだ。

『これまでの事件と今回の試験で見た君の“個性”を照らし合わせたら自ずと答えは出たってわけさ』

 超常社会において“個性”は非常に身近なものであり犯罪に利用するケースが殆どなのだから個性届から特定の個性を割り出すのなんて警察機関ならば日常的に行って当然のこと。加えて、現場に現れる犬を個性だと仮定してしまえばその人物の特定なんてあっという間という訳か。
 雄英の情報力を侮っていた私の敗北だった。

『それからヒーロー科合格の辞退を申し出るつもりなら無駄だよ。こちらの独断で君の普通科志願を取り下げたからヒーロー科に通う他ないって訳さ!』
「は?」

 この鼠はどこまで私を困らせれば気が済むというのだ。

 ヒーロー科に通うしか道がなくなってしまった私は大神なのに窮鼠となってしまっていた。寧ろ鼠は校長の方なのに。
 しかしこれはヒーロー科というより身近な場所からの傍観が可能となった、そう捉えれば悪くないように思える。そう思いたい。そうだったら良いのに。



『君の対応力はヒーローに相応しいから是非とも我が校に通って欲しい。それじゃあ、詳しくは後日郵送される入学資料を読んでね。』

 それだけ言うと映像は速やかに消え、いつもの部屋の風景に戻る。

 とりあえず溜め息基深呼吸をして平静を取り戻し、上映の合間に書き溜めた感想をきちんと纏めてブログにアップする作業に取り掛かろう。
 ここで取り乱してはこの世界の思う壺だ。


 なる丈目立たない格好を心掛けた結果ウェリントンの伊達眼鏡に背中までの黒髪を低い位置でツインテールもといおさげにするという有りがちな地味な女の子が出来上がった。やり過ぎにならぬよう三つ編みにしていない所がポイントだ。流石に眼鏡と三つ編みおさげの組み合わせはこの時代では少し古い。

 この世界の交通機関はかなり発展しており、ここ神奈川から雄英高校までは電車で一時間もかからない。
 両親と話し合った結果一人暮らしをするより電車通学をする方が経済的だということとなり当面は電車で通う運びとなった。その実私に一人暮らしをさせると寝る間も惜しんで映画鑑賞に励み廃人になる恐れがあると言われたのだ。失敬な、いくら私でもそこまでではない、多分。


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