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▼傍観少女じゃいられない03

 父親の個性は自在に狼になれるという狼男そのもので。こちらも特にヒーローに対する憧れはなく、元々の夢であった宮大工を生業としており、故に神話の類にも造詣が深い。
 母親の個性は半紙に書いた漢字一文字を現実とするものだ。例えば半紙に炎と書けば半紙は忽ち燃え上がり、雷と書けば半紙から稲妻が走る。しかし威力、持続力ともにいまいちらしく、特訓次第で伸びるのかもしれないが本人の穏やかな性格はヒーローと敵の両方とも向いていなかったようだ。普通のOLを経て現在は自宅の一部を利用して書道教室を開いている。
 私はこの人たちの娘として生まれ変わったことを誇りに思っている。だからこそ雄英高校を受験した理由の一つが最強とも言える学歴を得るべくであった。

 両親は私の個性を自分たちから受け継いだ“狼化”と“筆技”との複合個性だと思っているようだが正しくは、これは“アマテラス大神”という一つの“個性”だ。
 断言出来る理由の一つ、私の大神姿にはゲームで常に見ていたアマテラス大神と同一の朱色の隈取が存在しているけれど父のそれには一切無い。
 その二、私の筆の個性は母の“筆技”ではなく“筆しらべ”そのものである。半紙にではなく宙に筆で墨を塗り様々な事象を起こし、その事象の内容はゲームに存在していた十三の技、ほぼそのものであった。
 それに気を良くし試しにそれっぽい鏡や勾玉や剣を買ってみたが武器として装備は出来なかった。けれども、この個性は“アマテラス大神”そのものなのだ。

 そもそもアマテラス大神の容姿とその能力はあのゲームをプレイしたことのある人間にしか分からない。そして先にも述べたがこの世界に大神というゲームは存在しない。
 故に筆しらべは母の個性の延長に見えなくもないし、隈取は霊力のある人間にしか見えないので一般人にはただの白い狼にしか見えない故に勘違いしてしまうのも仕方ないことなのだ。
 しかしながら個性名は役所で勝手に変えさせてもらった。こればかりは譲れない。拘りは強い方だ。

 とまぁこの世界における私の“個性”について話した所で、今回もまた事件に巻き込まれ、しかも筆しらべという技を使わざるを得ない状況に陥ったのだ。



 同じく赤い隈取の大神が目の前にいる。
 完全に失念していた、個性を“コピーする”個性が存在することを忘れていた。いや、忘れてはいないのだがまさかこのタイミングでその人物に会ってしまうなんて、奇跡にも近い確率の偶然。とことん運が悪い。

「オワフ!(なんかごめん!)」

 同じ大神同士ならば伝わっているだろう。何が起きたのか分かっていない彼に向かって短く謝罪し、その場を走り去る。
 逃げながら願うのは彼の大神化が解けるまで保健所に連れて行かれないことだけだ。本当に申し訳ない、物間寧人君。


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