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▼傍観少女じゃいられない02

 ヒーローアカデミアの世界に転生していたからといってヒーローを目指したり、登場人物らとお近づきになる気はさらさらない。
 先にも延べた通り私は物語の主人公になりたい訳じゃない。4DX映画のようにその世界に存在しているけれど決して物語の中心人物にはならない、いてもいなくても支障をきたさないエキストラで在りたいのだ。
 エキストラとなって物語の行く末をただただ傍観していたいだけ。だのに、この世界はそれを許してくれないようだ。

「キャーッ! 助けてーっ!!」

 ただの一般人が月に四度も事件に巻き込まれるはずが無い。それも極穏やかにかつ細やかな生活を送っているこの私がだ。
 これから映画館に入り浸ろうと銀行にお金を下ろしに来ただけなのに銀行強盗が押し入って来てあっという間に占拠されてしまったのである。流石にこんなことを今年に入ってから十数回も経験していれば慣れてくるもので、私は咄嗟にトイレへ隠れた。
 持っていたメモ帳に人質の状況や犯人の人数、その他判断できる範囲での“個性”や特徴などを書き込んでいると遠くから足音が近づいてきたので慌ててトイレの窓を開ける。大方犯人グループの一人がトイレに客が残っていないか確認しにきたのだろう。よくあるパターンだ。
 “個性”で大神の姿となり窓から外へ。人間では通れない小さな窓でも大神の姿ならばすんなりと通ることが出来た。
 鏡間を移動することが出来る筆しらべ“霧飛きりとび”でも良かったのだが、行き来可能なのは一度でも姿を映したことのある鏡が水溜り乃至湖か海、それも大きさに制約があるため状況的にこの方が手っ取り早い。
 それから銀行の表へ周り、駆け付けたヒーローらと警察関係者に近付き口に咥えていたメモを渡せば、私の役目は終わりだ。

「どっかから犬が紛れ込んで……!」
「この仔の飼い主さんいたら早急に引き取って下さい!」
「ちょっと待て、何か咥えてるぞ。このメモは……!」
「でかしたぞ! これで突入できる!」
「おいワンコ、このメモは君の飼い主が書いたのか?」
「となると飼い主は人質の一人か!」

 少しの間大人しくしていれば利口な犬だと思い込んでくれて掴まれることもない。後はどさくさに紛れて現場を離れてしまえばいい。あの状況ならば人質の中に飼い主が居ると思い込んでくれるのでこちらとしては好都合だ。
 早くしないと映画の時間に間に合わなくなってしまう。大神のスピードで走って走って走って、映画館が見えたところで人混みに紛れて人間の姿に戻る。見たかった映画の時間には間に合ったので胸をなでおろす。ようやく日常が戻った。


 次の日の朝刊には“お手柄犬は何処に!?”という見出しであの時の白い犬もとい大神の私を探している旨の記事が載っていたのだが、これっぽっちも興味が沸かなかった。私が主役の話など要らない。


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