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▼03

 公安所属の私が素性を偽って組織に潜入し、その情報収集能力を活かして情報屋として働くこと一年足らず。やっとコードネームを与えられ、重要な任務を任せられるようになってから数ヶ月経ったある日、私はある重大な機密事項を知ってしまい、それが原因で組織から毒殺を図られた。
 開発途中の毒薬を飲まされた私は死ぬことなく、気がついた時には現在の無様な姿に成り果てていたのだ。現状持ち得る情報から考えるに私が飲まされた薬はアポトキシンと似た成分を持つ別の薬だったようで、中学生程まで体が縮んでしまっている。

 私の生死を確認しに来たのがベルモットであり、奇しくも私の知った機密事項というのがベルモットに関係のあることだった故に、これをネタに私と彼女は“ある契約”を交わしたのだ。取り引き成立までのスムーズさを見るに彼女にとっては相当重大な情報らしい。例え組織内のメンバーにであっても知られたくないのだと思われる。

 組織には私は毒薬で死んだことになっているため色々と都合が良い。

 幸い私が公安の人間であることはバレずに済んだ上に生かしてもらえているのも全てこの女のお陰でもあるというのが私としては癪だが、命あっての物種だ。
 あの時の降谷君の表情は一生忘れられないだろう。
 その降谷君こと現在安室透という偽名を使い組織に潜入している彼とは同じ公安の同僚なのだが潜入捜査をしている間は他人で通しているため彼に危険が及ぶ心配もない。

 その結果がこの無様な姿である。

 情報収集能力に長けていたばっかりに組織内でも情報屋として動き、結果これ以上の深入りを阻止するために毒殺を図られたのだが、その前に

 何の悪運か、彼女の秘密を知ってしまっていたが故に死亡確認に赴いた彼女とある取引をしたのをきっかけに現在このような無様な姿になっているのだ。

 この姿になってからは、同じく彼女の秘密を知っているバーボンが私の監視役を買って出たのだがそのバーボンこと安室透も実は公安の一員だから好都合だった訳だ。

 組織内ではこれ以上の深入りを阻止するために毒殺されたということになっている。
 その毒薬を盛って私をこんな体にしたのが目の前にいるこの女なのだ。好きになれと言う方が馬鹿げている。

 そもそも知り過ぎたら消される組織って如何なものか。どんだけ秘密主義だよ、非効率にも程がある。だからといってそこまで重要なことを知った訳でもなく、ベルモットの秘密なんて私からしてみれば取るに足らない情報だ。




「お帰り。十数年ぶりの中学校はどうだった?」
「……」

 返事の代わりに脛を無言で蹴りつけてやる。

「痛い痛い。……これは相当ご立腹だ」


「それにしても、こうして幼い名前を見ていると学生の頃に戻った気分だな」
「……本当に戻ってみる?」
「悪い悪い、冗談だよ」


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