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▼3bit

 作戦を聞いた私は早速準備に取り掛かった。ラブマシーンを誘い込むための罠用プログラムを即席で打ち込んでゆく。



「ばあちゃんが腐りそうだって時に、お子様はのんきにゲームですかぁー?」

 栄お婆ちゃんが腐ってしまうのは避けなければいけないが、こちらだって世界を守るために戦っていたんだ。
 今の戦いがどれだけ重要なことか、何も分かっていないくせにゲーム呼ばわりした翔太くんに私も少なからずイラついていたのは確かだ。
 けれど、こういう状況だからこそ、誰か一人でも冷静になっていなければいけないのだ。

「……っ、お前のせいだ!」
「佳主馬やめなさい!」

「でも姉さん! こいつのせいで……!」
「翔太くんは何も知らないんだから、仕方ないよ」

「何なんだよ! 佳主馬には殴られるし夏希はバカだし、名前にはバカにされるしよぉ! 全部お前のせいだ!」

 馬鹿にしたつもりは無いが翔太くんはそう捉えてしまったのなら、馬鹿なんじゃないかな。




「名前、佳主馬、ゲームの中でのことでしょ? そう、よね?」


 みんなが絶望する中、名前の指だけは動いていた。静かな部屋にキーボードを叩く音が似つかわしくなく響いている。
 僕は名前の額を伝う汗を拭って彼女を見守ることしか出来ない。
 きっと少しでも勝算があったから名前はこうして手を動かしているのだろう。
 エイリア学園と戦っていた時もFFIでマネージャーをしていた時も、いつだって名前はそうだった。ほんのわずかでも勝てると思ったら諦めなかった。

 かたかたとキーを打つ手が、最後の仕上げと言わんばかりに軽快にエンターキーを押した。その音は僕たちの希望の光と変わるのだ。

「……どうした?」
「名前……?」

 太助さんと翔太さんが声を掛けると、名前は画面に向けていた顔をみんなに向け、口を開く。

「奪われたアカウントを取り戻す手立てが出来たの」

 いつの日かガルシルド邸のコンピュータから機密情報を抜き出した時に見たのと同じ、悪戯を思いついた子供のような笑みを浮べていた。あの時は仕返しに特製ウイルスを仕込んでいたのだから、名前は怒ると恐い。




「どういうこと?」
「ラブマシーンは遊ぶのが好きみたいだから、それを逆手に取るの!」

 夏希の問いに答えると愛用のノートパソコンをくるりと回し、先ほど完成したばかりのプログラムをみんなに見せる。
 とはいっても分からない人にはただ英語と記号の羅列にしか見えないだろう。
 案の定士郎も夏希も叔母さんたちも分かっていない様子。OMCチャンピオンの佳和馬もプログラムにはてんでダメらしい。
 その中で健二くんと侘助さんは画面を見て驚いていた。特に侘助さんは画面をスクロールさせては感心したように頷いている。

「急ごしらえにしては上出来じゃねえか」
「これでもOZプログラムチームの一員だからね!」

 大きな手で頭を撫でられる。こういう事に慣れていないのか触り方がぎこちない。不器用だけど優しい手。
 それが気に入らないのか士郎が侘助さんの手を除けるように間に入り込んできて、侘助さんは小さく笑う。

「フッ、子供だな」
「子供で結構です」
「……んで! 結局何の!?」

 痺れを切らした理香叔母さんの怒鳴り声に肩が跳ねる。みんなで食事こそしているが今はのんびりしている場合ではなかったのだと思い出した。
 後ろから士郎に抱きしめられながら私は全員に聞こえるように答える。

「カジノステージの仕様をちょっと変えたの」
「どういうこと?」

 私が新しく組んだプログラムによりカジノステージで電子マネーやポイント同様にアカウントを賭け種にすることが可能となったのだ。
 つまり、ラブマシーンとアカウントを賭けて戦えるように改造したのだ。後は奴に確実に勝てるもので勝負を挑めばいい。
 キングカズマの挑戦状に乗ってきた事を考えれば奴はこの勝負に必ず乗ってくる。だからこその作戦。
 これでアカウントを奪い返してしまえば後は丸腰の奴を捕まえ、解体してやるだけ。

 私の説明を聞いてみんなが感嘆した。が、すぐに佳主馬から疑問の声が上がる。

「勝負って言ったって一体何で……?」
「私たちにはそれがあるじゃない」

 そう言って健二くんの手中に収められた一組の花札を指差す。そう、栄お婆ちゃんに骨の髄まで叩き込まれた花札で世界を救うのだ。
 代表はもちろん夏希。一族の中で栄お婆ちゃんの次に強い為これは満場一致で決まった。


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