×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

▼2bit

「それで聖美さんの長女の名前と、その恋人の吹雪士郎くん」
「よろしくね、夏希のお婿さん」
「名前とは結婚を前提にお付き合いしています」
「ふ、吹雪士郎!?」
「やっぱり健二くんも知ってるわよね!」

 吹雪士郎といえば宇宙人事件解決に世界大会日本代表などサッカーにおいてその名を知らないほどの有名人だ。サッカーセンスが抜群なのはもちろん、加えて誰もが認めるイケメン。
 そんな有名人の恋人だなんてさすが先輩の親戚、と思ったが池沢名前という名前にも覚えがあった。確かプログラミングの大会の高校生部門で優勝した人だ。
 今期から大会不参加を表意したとネットニュースに出ていて佐久間が騒いでいたのを思い出した。あの時見せられたネット検索の画像でも思ったが凄く綺麗な人だ。美男美女とはまさにこのことなのだろう。




 もう寝てしまおう。ログアウトしようとタブレットを動かした刹那短く軽快な音が室内に響き新着メールを知らせた。


「『Correct me私を正して』……?」

 眠気眼でメールを開いてみればびっしりと英数字が羅列されていてそれが何かのプログラムであると気づいた。しかしスペルミスやループ処理ミスなどが随所に見られる。メールの題名からしてコレを修正しろということだろう。
 下っ端とはいえOZのプログラムチームに属している私にとってこんなものは朝飯前。半分しか開いていなかった目は少しずつ開いていき寝ようと思っていた頭はフル回転で修正箇所を見つけては指を動かす。PGの悲しい性だ。
 寝ようと思っていた頭はフル回転し、実に二時間半ほどかけて全ての修正箇所を完璧に直してから送り主に送信した。
 どこかで見たようなプログラムだとは思ったが今はそれどころではない。すごく眠い。すぐにログアウトしてノートパソコンを閉じて寝た。
 隣で眠る士郎に小さくおやすみと呟いて。




 夜更かしをしてしまった私が起きたのはいつもより一時間ほど遅くだった。重い瞼を微かに上げればぼやける視界に愛しい人がいる。

「……士郎?」
「うん、僕だよ。おはよう」
「おはよー」

 起き抜けにキスをされてぼんやりしていた頭が段々とはっきりしてきた。上半身を無理やり起こして欠伸と伸びを一つずつ。
 母さんか誰かに言われて私を起こしにきたのだろう。でも何で起こさなかったのだろうか尋ねてみれば私の寝顔が可愛いとかなんとかでつい見入ってしまったらしい。ちょっと照れる。
 布団の上から馬乗りになった士郎に頬を包まれ再び唇が重なる。




 私が所属しているOZのプログラム開発チームから本アカウントに凄い数の着信履歴とメールが入っていて、メールを開けば目が回りそうな情報が書かれていた。
 昨夜にOZのセキュリティの入り口の鍵である2056桁の暗号が大量に流出し何人かが解いてしまったらしい。そしてその流出した犯人がラブマシーンというAI。
 コンピューターで記憶・推論・判断・学習など人間の知的機能を代行出来るモデル化されたソフトウェア・システムのことでいわばパソコンの中で生きている人間のようなもの。邪念があれば凶悪な犯罪だってできる。
 というより現在進行形で起こっているのでたちが悪いのは目に見えている。
 また、昨夜のメールを返信した人のアカウントがラブマシーンに奪われて使用不可能な状態であることもわかった。

 昨夜のメールという点において私にも心当たりがあった。パソコンを立ち上げ昨夜に返信したメールを確認してみる。冷や汗が止まらない。
 携帯のメールの続きを読む。昨夜暗号の他にもとある書きかけのプログラムがメールで送られそれを誰かが修正し返信したことによりOZのフィールドプログラムが書き換えられているとのこと。
 今私は切腹したい気分だ、そのプログラムの修正をしてしまったのは私です、ごめんなさい。しかも見事にサブアカウントを奪われてしまいました。

 明らかに様子のおかしい私を心配してくれたのか士郎が私の肩を抱き顔をのぞき込んできた。私はのどの奥から声を振り絞った。

「士郎どうしよう、プログラム修正しちゃった、しぬ……」
「プログラムって、OZの?」
「うん……」
「うーん、過ぎたことは仕方ないよ。今はこの状況を打開することを優先させよう」
「うん」

 優しく抱きしめてくれた士郎に元気をもらって気合いを入れ直す。士郎の言うとおり今はこの状況を打開せねば。

 とりあえず我が開発チームの主任に電話を掛けてたっぷりと説教をもらう。電話なのに必要以上に頭を下げる私。

『何のプログラムかも考えずに……このプログラムバカ!』
「うぅ、すみません」
『ああんもう。あんた以外にもプログラムの手直ししちゃった奴何人かいるし、あたしはそいつらの特定で忙しいのよ』
「まじですか」
『兎に角、今は奴のせいで管理棟にも入れないのよ。管理棟に入れ次第復旧作業だからね!』
「はいぃっ!」

 ぺこぺことひたすらに頭を下げていると主任は気になる言葉を言い出した。

『キングカズマもラブマシーンに負けちゃったし、OZはどうなっちゃうのよぉ……!』




 OZの管理棟にも入れないのを健二くんが何とか暗号を解いてくれたおかげで入ることができた。私は真っ先に自分の担当箇所へ急ぐ、大多数のフィールドが書き換えられているのでそれを元通りに書き直す作業が始まった。


 私もOZのシステム復旧をお手伝いして、半日ほどをかけてようやく公共機関や交通機関などは通常通りの運転が再開した。
 しかしまだまだ復旧出来ていない重要な施設は山ほどあるのだ。これは徹夜かなと心の中で嘆くが、自業自得でもある。


<< 戻る >>