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▼OP→T&B 03

 鳥たちに色々と教えてもらいながら今夜をどう過ごそうか考える。ちなみに少尉以上の証であるコートはこの世界では目立ちすぎるようで、軽く畳んで手に持つことにした。
 ナンパされるのを待って家に泊めてもらうという案も私の中で出た。そのために体を安売りするのは憚られるが状況が状況だ、やむを得ない。
 覇気を使えば相手の考えなど見通せるのでなるべく善人を選ぶことも出来るし、最悪何が起ころうとも正当防衛として片付けられる。
 しかし私の案はすぐさま却下されてしまった。誰にって、カラスに。彼はこの街に昔からいる古株カラスで、私の境遇を聞いても信じてくれた優しい鳥だ。
 彼の言うことを聞き入れたいが、この世界の通貨を持たない私が一夜を明かせる場所など他にはないのだ。

 やがて、彼の導きにより大きな噴水のある広場のような場所に辿り着いた。
 噴水の前にには丁度良くベンチが設置されており、一息吐くために腰を下ろす。私の足元を歩いていた彼も羽を広げて私の隣に飛び乗る。

「このまま外で一夜を明かすのは憚られるのですが……それに私、別に生娘と言うわけではないので大丈夫ですよ」
『貴女はもっと自分の体を大切にしてください』
「はぁ……」

 頑固な彼と会話をしている間に、一羽、また一羽と、私の周りには様々な鳥が集まってきていた。
 これは私の食べた悪魔の実の副作用とも言える現象で、鳥類は私に付き従いたがる。それは世界の壁を越えても健在であることが今証明された。

 十分も経たないうちに、この街にいる全ての鳥類が集まっているんじゃないかと思える程の量が集まり、暖かいけれど少し息苦しい状態となった。
 天然の羽毛のせいで周りは見えないが覇気を使えば超常現象を疑われていたり私が鳥に襲われていることを心配する声が聞こえる。
 これはまずいと思った刹那、一匹の大型犬の鳴き声が鳥たちを解散させた。



 今日、事件発生を聞き現場へと向かった私の目に飛び込んできたのは犯罪者を軽々と伸している女性だった。
 振り向いた時の彼女は凛としていて、思わず見惚れてしまっていた。ワイルド君が声を荒げなければ私は永遠に彼女を見続けていただろう。
 もう一度彼女に会いたいと、思ってしまった。この感情は前にも一度体感したから分かる。

「ワフッ!」
「ジョン待つんだ!」

 白髪の女性のことは忘れた訳ではないが、やはり人間は前を向いて歩かなければならない。
 そう考えてはいるものの足が自然と彼女と出会った広場へと向かってしまう。いや、これはジョンに引っ張られているのだなどと自分に言い訳をしながら。
 食材の入った紙袋にジョンのリードと、奇しくもあの日と全く同じ状態でこの広場へと来てしまった私。しかしあの時と違うのは落ち込んでいる私ではなく、いつもの私だということ。

 噴水の前、彼女が座っていたベンチには既に先客がいた。しかしそれは人ではなく大量の鳥の群。 見知った鳥から珍しい鳥まで、生憎私は鳥類に詳しくないのでそれぞれの種類を言い当てることは出来ないが。
 まるで餌に群がっているようだと、遠くから見ていると不意にジョンが動き出した。
 勢いよく鳥の群へと駆けてゆくものだから、リードは私の手から抜けてしまった。結果的に私は彼を追いかけることとなった。
 しかし近付けば近付くほどに興味を引かれてしまう。何のために群れているのかは分からないが、ここまで集まっていると圧巻だ。素晴らしい。

「あの鳥の中に女の人いたよな。何かヤバくね?」

 ふと、野次馬の男性の声が聞こえた。鳥の群に女性が取り込まれているだと。それはいけない。
 大事になる前に助けなければいらないと考えるのとほぼ同時、ジョンがその塊に向かって吠えたのだ。

「バウッ!」

 刹那、鳥で構成された塊が瞬く間に解体されてゆき、現れたのは先ほど出会った彼女だった。白いコートは羽織っていなかったが私には彼女だと直ぐに分かった。
 ふわりと、藍色の艶やかな髪が風に舞う。
 まるで手品みたいに、一斉に飛び立つ鳥の中から現れた彼女は、藍色の艶やかな髪を風に靡かせ、薄茶色の双眼で私を射抜く。
 白髪の彼女ではなかったことは残念だったが、目の前の彼女に再会できたことは非常に喜ばしいことだった。出逢うべくして出会ったのだと感じた。
 うるさい心臓を抑え、私が話しかける切欠を掴みあぐねていると彼女が先に口を開いた。

「ごめんなさい」
「……?」

 なぜ謝られたのかが分からず首を傾げてしまえば彼女は困ったように笑って見せた。
 その顔がまた可愛らしく、私はつい魅入ってしまいそうになったが見計らったようにジョンが彼女に飛びついた。


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