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▼OP→T&B 02

 その日ヒーローTVの名プロデューサー、アニエスは怒りと興奮と好奇心が入り混じる複雑な心境であったが、確かに満たされているのを感じた。
 宝石窃盗犯を追っているカメラが捉えた見知らぬ一人の女性。背面に大きく“正義”と書かれた白いコートを肩に掛けた、まるでヒーローの様な存在。
 颯爽と現れ自分よりも体格の大きい窃盗犯の男性二人を軽々と倒して見せたのだ。
 一連の映像を放送し、視聴率が上がらない訳がない。
 ヒーローたちの出る幕もなかったくらい鮮やかな確保劇に、彼女はニューヒーローなのかという問い合わせも殺到したくらいだ。
 勿論アニエスも各企業のお偉方も知り得ない事であり、むしろ此方が知りたいくらいだと叫ばずにはいられない。

「あなた達を呼び出したのは他でもないわ」
「先ほどの女性のことですね」
「ええ、そうよ」
「そうよ、あれ何だったの!?」

 ヒーローたちをトレーニングルームに呼び出したアニエスに、ブルーローズが声を荒げる。先ほどの出来事で謎の女性に見せ場を横取りされ、あまつさえ犯人確保のポイントは無効となってしまったのだ。当然と言えば当然の反応である。
 他のヒーローたちもブルーローズと同様の反応を見せている。皆、先ほどの女性が何者なのか考えあぐねているのだ。

「彼女のことは私たちにも分からないわ。まずはこの映像を観てちょうだい」

 そう言ってトレーニングルームのテレビに流したのは先ほど生放送されていたヒーローTV、件の女性が映っている部分。
 丸腰の女性がナイフを持った男二人を相手に臆することなく、華麗に倒してゆく様をヒーローたちは静かに見ていた。皆一様に違和感を感じていた。


 肩に掛けているだけのコートを一度も落としていないのだ。それだけでも凄いのだが、更に違和感を感じさせる行動の一つとして彼女の顔が一切カメラに映っていないのだ。
 カメラに背を向けているにも関わらず、常にカメラの位置を把握しているかのような動きを見せている。
 彼女の顔を撮ろうとカメラを回り込ませれば彼女も自然な動きでカメラに背を向ける。まるで偶然そうなってしまったかのように。
 偶然が最後まで続けばそれはもう必然だ。

 無駄のない動きで犯人を伸しているのに肩に掛けたコートを落とすことなく、意図的にカメラを避けている。相当の技量を持った人物ではないと出来ない芸当。
 NEXTという可能性も考えたが、一瞬たりとも体を発光させている様子はないので能力は使っていない。素でこの強さなのだ。
 そのミステリアスさも相まって、後ろ姿しか見えなくとも視聴率は鰻登り、颯爽と去ってゆく姿さえ麗しい。

 映像を見終わったヒーローたちが彼女の能力の高さに感嘆する中、ファイヤーエンブレムが溜め息混じりに発言する。

「……彼女、ただ者じゃないわね」
「確か、通りすがりの海兵って言ってなかったか」
「海兵……って軍人なの!?」

 ワイルドタイガーの言葉に、あの場にいなかったファイヤーエンブレム、ドラゴンキッド、アニエスの三人は驚きを隠せなかった。
 真偽は不明だが、軍人と言われればあの身体能力にも納得のいく理由が付く。

「とにかく、今は彼女を見つけるのが先よ」
「……一応聞いておきますが、彼女を見つけてどうするんです?」
「そんなの決まってるじゃない、彼女をヒーローにするのよ!」

 バーナビーの質問に高らかと答えるアニエス。ヒーローTVの名プロデューサーである彼女は、時折突拍子もない企画を立てるが、ほぼ必ず成功を収めている。今回のそれも彼女の段取り通りならば上手くゆくのだろう。
 本人の意志はともかく、彼女がヒーローになればすぐに人気者になれるのは間違いない。

「というわけで、その女海兵を捕まえたら特別捕獲ポイントをあげるわ!」

 アニエスの声がトレーニングルーム内に響く。それを言い終えると彼女は満足げにトレーニングルームを出て行った。
 ポイントの低いヒーローは是が非でも彼女を見つけだしたいところ。他のヒーローもポイントは多ければ多いほど良い。

「あんたたち直接見たんでしょ? 何か特徴とか教えなさいよ」
「特徴か……」

「せ、拙者一部始終見ていたでござる!」

 右手を上げ、声をあげたのは折紙サイクロン。興奮しているせいか素顔にも関わらず、ござる口調が出ている。
 瞳を爛々に輝かせた彼は興奮気味に巻くし立てる。

「拙者、いつものように見切れようと木の陰から見ていたで候。すると彼女は犯人たちの前に立ち立ちふさがり、一切無駄のない動きで犯人たちを確保していたでござるよ。しかも羽織ったコートは微動だにしていないという神業! そして市民の安全を考慮したのでござろう、犯人の持っていたナイフを二本とも拙者が待機していた木へ投げ刺したのでござる。手裏剣を投げる忍者の如く見事な投擲でござった!」

「……で、外見的特徴は?」
「あっ、それは……う、動きに夢中で、よく覚えてません」

 静かになったトレーニングルームにヒーローたちの溜め息が漏れる。
 それをきっかけに折紙サイクロンは本来の自分を思い出したかのようにネガティブに戻ってしまった。眉尻を下げ謝罪の言葉を口にしながら縮こまってゆく。

「気にすんなよ折紙! 俺だって美人だなーくらいしか覚えてねぇんだから」
「虎徹さんはもう少し気にしてください……」
「そうだ。スカイハイが一番乗りだったんでしょ? どんな人だった?」
「うーん、そうだな……」

 ドラゴンキッドの問いに、顎に手を当て何かを考える素振りを見せたがすぐにいつもと変わらぬ笑顔で言う。

「とても綺麗な女性だったよ! そして美しい!」

 トレーニングルームに二度目の溜め息が漏れるのだった。
 彼からこれ以上の情報は望めないと、ヒーローたちはアニエスが置いていった映像を観ながら模索する。
 ふと、ブルーローズが彼女のコートに注目した。

「そういえば……コートに書かれている文字は何語なの?」
「ああ、あれは多分日本語だと思います」
「あれは日本語で“正義”。意味はジャスティス(正義)、だな」

 折紙サイクロンの言葉に虎徹が答える。正義だなんて、まさにヒーローに打ってつけではないか。


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