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▼そんなのも気にしてません

 八百万が名前に独白し始めたと同時刻、モニタールームでは一方的に話を聞かさせる名前の表情が明らかに無になっていくことに疑問を抱いていた。

「名前ちゃんたち何の話してるんだろう……」
「作戦会議……ではなさそうね」

 蛙吹の予想通りそこで広げられている会話は八百万からの一方的な謝罪であり、名前にとってはどうでもよいことだった。
 一人その内容を聞いていたオールマイトは、彼女のことを知る良い機会だと思い、敵チーム側の音声だけオンにする。
 ヒーローチームのスタートまであと一分もない。

『でもあれは明らかにイジメの類いでしたわ』

 すると一番初めにクラスメイトたちの耳に入ってきたのは罪悪感に押しつぶされそうな八百万の声だった。
 “いじめ”という不穏な単語に、名前が被害側か加害側で話は大きく変わる。

『あんなのいじめに入りませんよ。ああいう連中は小さい頃からいましたし』

 その言葉にクラスメイトたちは名前が被害者側にいたことを悟る。
 確かに普段の彼女は言い方が悪いが暗い部類に入る。故にそこに漬け込んでいじめの標的にされていたのだと。

「陰口も嫌がらせも根も葉もない噂話も、全て慣れました」

 無表情のままの名前の言葉に八百万は奥歯を噛みしめる。

 小さい頃から可愛いという自覚があった名前は妬みや嫉みを向けられることが多く、嫌がらせも多く受けてきた。
 しかしそれは、相手が自分の可愛さを認めていることになるのだと考えると寧ろ優越感しかない。変な所でポジティブシンキングなのも名前の長所である。

「でも変な噂も沢山……!」
「そんなのも気にしてません。たかが噂如きにいちいち反応していたらキリがありませんからね。言いたい人には言わせておけばいいんです」

 鉄板を移動させながら、はっきりと言う。
 芸能人、ましてやアイドルをしていれば批判的な意見も存在し人気や知名度が上がるにつれそれも多くなるのは仕方のないこと。特に名前のキャラクターは人を選ぶ。
 そんな有象無象の戯れ言に踊らせれていては大人気アイドルは務まらない。

 輿水名前は強かった。強く、気高く、凛としている。
 彼女の芯の強さはモニター越しにも伝わっていて、“ただちやほやされたいだけの女の子”という一般の印象を足元から崩していった。



「ボクのこと、何も知らないくせにっ……!」
「ええ、何も知りませんわ。だから知りたいんです」




「名前ちゃん! 私とも友達になろう!」
「えっ、何ですか……!?」
「俺一生ファンやめねぇから!」
「俺も! 一生付いてくって決めたっ!!」
「輿水の芯の強さ、伝わってきたぜ!」

「は、え? な、何なんですか一体!?」

 会話が全て筒抜けだったとは知らない名前はこの状況に訳がわからず、助けを求めて蛙吹に視線をやる。

「敵チーム側だけ音声がオンになっていたのよ」
「え……えぇっ!? ボクは聞いていませんよ!
どういうことなんですか!?」

「オールマイト先生! これはプライバシーの侵害ですよ!?」



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