▼11.世界で活躍する日本人 軽快な音楽と共に番組のタイトルが表示され、司会者である男性がそれを読み上げる。 「世界で活躍する日本人スペシャル〜!」 場面は切り替わり司会者とゲストの芸能人を映し出す。日本では有名な人たちもシュテルンビルトではただの人。同様に海外では有名でも日本では知名度のない日本人もいる。そんな日本国外で活躍している日本人にスポットを当てた番組である。 画面が切り替わりシュテルンビルトについての軽い説明が入った。そこから更に場面は切り替わりシュテルンビルトへ赴いたリポーターが街行く人に同じ質問を繰り返す。 「貴方の知っている日本人はだれですか?」 質問された若者は満面の笑みで答える。人物名以外の言葉はもちろん日本語に吹き替えてある。 「ナマエミスティカルだね! 彼女は本当にキュートだ」 他にも、若い女性、高齢者、特に男性の方が力強くテンション高らかに言葉を発する。 「私ナマエミスティカルに助けてもらったことがあるの!」 「ナマエ! ナマエミスティカル最高!」 「折紙サイクロンとナマエミスティカルは日本人だろ?」 「日本人と言えばナマエかな。HEROだしかっこいいよね!」 「ナマエモエ〜!」 口々に一人の女性の名前を言う。そこでナレーションが「ナマエミスティカル」と「HERO」という言葉を拾い、先にHEROについての説明を簡単に入れる。 それから画面には七社九名のHEROたちの集合写真が映し出され、ゆっくりと一人の女性へとズームしてゆく。 日本の巫女の格好をした可愛らしい女性。またナレーションが入る。 『なんと、HEROの中に日本の巫女が!! そう、彼女こそシュテルンビルトで活躍する日本人、ナマエミスティカルなのだ』 HEROTVから借りたナマエミスティカルが活躍しているシーンだけの映像と共に彼女についての説明が入る。 『彼女は日本人でありながらシュテルンビルトでHEROを生業にしている。ナマエミスティカルは日本出身の巫女として、同じくヘリペリデスファイナンス所属のHERO、折紙サイクロンのバディとして活躍しているのだ。初登場時から人気が爆発し今では老若男女問わず彼女を応援しているファンは多い』 映像は彼女の決め台詞の場面。日本の神社を模したトランスポーターで折紙サイクロンと共にポーズを決めている。 「貴方の悪事は大凶です。神に代わってお仕置きします!」 『彼女のブログでは彼女にお仕置きされたい男性ファンが急増しているとか』 日本語字幕と共にすかさず入ったナレーションによりスタジオにいた芸能人たちの笑い声が聞こえてきた。 画面は切り替わり、再びシュテルンビルトの街並みが映し出される。それから少し歩いたところで大きなビルが映る。 ナレーションでそこがナマエミスティカルが所属するヘリペリデスファイナンス本社であることを知らされる。 本社の中へ入り受付と会話をする。ナマエミスティカルさんに会いたいのですが、と。 事前に取材のアポは取ってあるにも関わらずアポなしの体で話を進めるのは、日本のテレビではよくあることだ。 「さすがは日本をフューチャーしている会社。内装も日本風です」 係りの女性に連れられてリポーターが案内された場所は応接室。内装は豪華で、日本語で“和”と書かれた掛け軸が飾ってある。 リポーターが緊張の面持ちで待っていると応接室の扉がノックされ、一人の女性が入ってくる。 「すみません、お待たせしました」 そこで一旦画面は止まりナレーションが入る。 『彼女がシュテルンビルトで一番有名な日本人、ナマエミスティカルだ』 「彼女はHEROになる数年前、日本に住んでいた頃、通っていた高校の交換留学でシュテルンビルトのハイスクールに半年ほど通っていたそうです。そのとき衝撃的な体験をしたそうなのですが……」 インタビューを受けるナマエミスティカルは日本を忘れていない証である流暢な日本語で受け答え始める。 「はい。交換留学でこっちの高校に通っていたとき、とある事件に巻き込まれて人質にされたんです」 ――えっ、人質ですか!? 「はい。銃を突きつけられて本気で死ぬんじゃないかと思いました、当時はただの高校生でしたので。でも、そんな折りHEROに助けて頂いたんです」 ――そのHEROは誰か尋ねても? 「ワイルドタイガーさんです。だから私がHEROなって彼と再会するなんて思いませんでした。今でもお世話になっていて、ワイルドタイガーさんには感謝してもしきれないです」 ――人質になって危険な体験までしたのにこちらの大学に通ったそうですが、なぜですか? 「正直、祖母と祖父にも、またいつ危険に晒されるから分からないと反対されました。……でも、一度危険に晒されたから二度と行かないなんて排他的な考えではいけないと思ったんです。二人が私を心配してくれているのは分かっていますけど、この街にはHEROがいて、何かあってもちゃんと守ってくれます。私は彼らを信頼して、こっちの大学に通おうと決めたんです」 ――HEROを信頼しているんですね 「はい。私もヒーローですもん。何より彼らと同じ仕事を始めてから感じたんです。彼らはポイントが欲しいから人命救助するのてはない、しっかりとした自分なりの正義と信念を持っているんだと」 ――何でHEROになろうと思ったんですか? 「正直に言っても良いのでしょうか、会社的に。……そうですね、就職活動で今の会社の支店銀行に応募したら、ヒーロー事業部に内定が決まってしまったんです」 ――ヒーロー事業部に内定で、HEROになったということですか? 「はい。最初は驚き戸惑いましたが、今では良い思い出です。あっ、でも最終的にHEROになろうと思ったのは私の意志です。……あの時、私を救ってくれたワイルドタイガーさんのように、私もこの街を、沢山の人たちを守りたいと思ったんです。この世界が好きだから」 そう言ってナマエミスティカルははにかんで笑った。 ――ここからはプライベートに迫った質問になりますが、HEROの中で一番親しいのは誰ですか? 「折紙サイクロンさんです。バディでもありますし、年齢も近いのでよく一緒にお食事にも行きますね」 ――折紙サイクロンさんと言えば日本の忍者をイメージしていますが? 「そうですね。彼自身凄く日本が好きなので日本人としてとても嬉しいです」 ――他に仲の良いHEROはいますか? 「皆さん仲良くしてくださってますよ。中でもブルーローズさんとドラゴンキッドさんとフャイヤーエンブレムさんは同じ女性同士ということで特に仲が良いかもしれません。あっ、もちろんスカイハイさんやワイルドタイガーさんやロックバイソンさんやバーナビーさんとも仲良しですよ! この前も皆さんで集まって手巻き寿司パーティをしました!」 嬉しそうに顔を綻ばせる彼女に、スタジオにいる男性芸能人が可愛いなぁと感想を言う。 (中略) 「――それでは、貴女にとってHEROとは?」 リポーターが最後の質問をする。 「私にとってHEROとは、ですか。難しい質問ですね。……私にとってHEROとは、命の恩人であり、憧れの存在であり、大切なパートナーでもあり……いえ、」 そこまで言って彼女は首を振った。 「私にとってHEROとは、この街を、この世界を愛して止まない正義の味方です」 『最後に、決め台詞をお願いします』 「はい、わかりました。……貴方の悪事は大凶です。神に代わってお仕置きします!」 『ありがとうございます!』 「あはは、ちょっと恥ずかしいですね。こちらこそありがとうございました」 その番組は日本で放送された後、しばらくしてからHEROTVでも同じ番組が英語字幕で放送されることとなりその日は街から人の姿が消えたとか何とか。 彼女の知られざる過去や思いを目の当たりにした視聴者からの反響は凄まじく、そのどれもが賛の方だったのが彼女の人気を物語っていた。 |