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▼12.里帰り

 ブログにはたくさんのコメントが付いていた。
 もちろん日本でその番組を見ていたという日本のファンからもコメントが付いており、日本語で書かれた文章を嬉しそうに読む名前。



「一週間だ!」

 ヒーロー事業部でデスクワークをしていると、勢いよく扉を開けハロルドさんが開口一番そう告げた。
 私とイワン君はただただ首をかしげるしか出来ない。

「いやあ名前、この前のテレビ観たよ! 実に素晴らしかった!」
「ありがとうございます」
「それにヒーローランキングも三位以内に入ったからね、そのご褒美も兼ねて一週間休みをあげようと思って!」
「わっ、いいんですか?」

「ついでにイワンも一週間休みだ。そうしたらアンジェリカも仕事がなくなるから君も一週間休みだ! 三人とも早めの夏休みだよ!」


「名前は日本に里帰りでもしておいで! お祖父さんとお祖母さんに顔を見せてきなよ!」


「そうだイワン君も一緒に日本に来る? お祖父ちゃんとお祖母ちゃんにイワン君のこと話したらいつか連れてきてって」
「い、いいの?」





「“カイオードー”!」
「カイオードー……海洋堂のこと?」
「そこでござる! そこにナマエ殿の日本限定フィギュアがあるんでござるよ!」


「あれ、でもそのフィギュアあげたよね」
「それも飾ってあるが自分でちゃんと買っておきたいんでござるよ!」
「……マニアめ」



・名前の両親の墓参り


「今はね、シュテルンビルトでHEROしてるんだ。お父さんとお母さんと同じ、人を助ける仕事で、危険なときもあるけどやりがいもあって、そこはお父さん達とおあいこだね。……それに、何かあっても彼がいるから大丈夫」

 言い終わってから私が振り返ってイワン君を見ると、彼はいつもの猫背をぴんと伸ばし顔を赤くしていた。
 お墓とはいえ、私の両親を前に緊張してくれているのだろう。その一生懸命で真摯な様子が可愛くて、愛おしくて堪らないのだ。

「彼ね、ちょっとネガティブだけどやるときはやるのよ。本当にかっこいいんだから」

 内緒話をするように口元に手を添えて彼に聞こえないように言う。尤も、日本語で喋っていたから今の話は私とお父さんとお母さん三人だけの秘密なんだけど。

 私は終わったよ、そう言ってイワン君と入れ替わるように後ろへ移動する。
 イワン君はぎこちない足取りで前に進み墓石に向かって一礼すると、いつ練習したのか片言の日本語で話し始めた。

「初めまして、名前さんとお付き合いサセテイタダイテる、イワン・カレリン、です。……あーっと、」

 そこまで言って、ポケットから紙を取り出した。どうやら言いたいことを紙に書いてきたらしい。
 改めて彼の言葉で恋人同士だと言われると頬が熱くなる。生娘じゃあるまいし、と自分に言い聞かせるけど両親へ恋人を紹介しているのだから仕方ないのかも。
 紙を見ながら、途切れ途切れだけどしっかりと言葉を紡ぐイワン君を見守った。

「名前さんは、ぼ、ボクが、何があっても守りマス。必ず、幸せにしまス!」

 語尾が強く、自信が込められていた。彼の決意を聞いた私は思わず目頭が熱くなった、鼻の奥もつんとしてきた。
 この人を好きになって良かった。



・日本滞在予定表
一日目、日本へ、東京観光し、旅館で一泊
二日目、ヒロインちゃんの実家へ、広島か東北あたり
三日目、田舎案内
四日目、夏祭り
五日目、京都へ、観光し、老舗旅館で一泊
六日目、シュテルンビルトへ
七日目、シュテルンビルトでデート


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