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▼10.素敵な逢い引き

 純血日本人のNEXTはかなり珍しい。


 動きも音も全てが止まった世界は、色とりどりなはずなのに僕と彼女以外の色は存在していないみたいにくすんで見えた。
 彼女はいつもこの世界を体験しているのだと思うと胸の奥が少しだけつんとした。彼女以外の何もかもが止まってしまった世界は、寂しい。

「たまにね、全て投げ出してこのままどっか遠くへ行っちゃいたいって思うことがあるの」

 いつもの騒がしさが完全に止まった世界で、彼女の声だけが響く。

「みんなからしたら、私が急に消えちゃうんだからきっと酷くびっくりするだろうね。そして力いっぱいに心配してくれる、もしかしたら私が消えて清々したって思う人もいるかもしれない」

 前者はたくさんいるだろう。僕も、他のHEROたちも、彼女のファンたちもきっと驚き、戸惑い、悲しむだろう。場合によっては自殺する人だって現れる。

「名前さんが急にいなくなったら悲しむ人はたくさんいるよ」
「ありがとう」

 音の止まった世界でも聞き逃しそうな小さい声がお礼を言う。何に対して。僕の言葉に対して、悲しむあろう人たちに対して、全てに対して。否、答えは解らない。
 彼女はゆっくりと瞼を伏せ、さらに言葉を紡ぐ。

「私が消えたら悲しむ人がたくさんいる。そう思い込めばこの世界でも頑張れる。時間を止めて、目的の場所までの寂しさを紛らわせられるの」

 紛らわせるということはやっぱり寂しいんじゃないか。

「今はイワン君がいるから寂しくないよ」
「名前さん」

 ヒーロースーツを纏ったこんな状態では彼女を満足に抱き締めることも出来やしない。

 彼女が能力を発動する度に僕もこの世界にいれたら良いのに。そう、いくら強く思っても僕のNEXTは変わらない。

 だから、せめて今だけは彼女が寂しくないように、この手だけは離さないと決めた。


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