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▼西洋ツツジと呼ばないで03

 今日のホームルームは半年先にある修学旅行について。行き先は北海道に決まったようで、クラスのみんな嬉しそうに班を決めている。
 例に漏れず私も修学旅行が楽しみなのだが、それとは別に北海道という言葉に引っ掛かりを感じていた。
 こう、胸がざわざわして、何が何でも行かなければという使命感に襲われたのだ。
 とりわけ北海道が好きだとか特別思い出がある訳ではないのだけれど、行かなければ一生後悔するような、そんな気がする。

「北海道……」
「ねぇ名前、一緒の班になろ!」
「あ……うん。私も誘おうと思ってたところなの」
「それにしても北海道だなんて私立様々って感じだねー」

 親友ともいえる存在である美香が、私の前の席の子が他の子の所へ行っていて不在なのを良いことにその席を陣取る。何事も迷いがないのが彼女の長所であり短所でもある。
 彼女の言葉通り、これが公立中学だと隣県くらいだろうから、このときばかりは私立中学で良かったと思う。
 美香を筆頭に、残りの班員もすぐに集まった。みんな仲の良い人たちばかりで、それだけでも修学旅行の楽しみが増す。
 先生に班員が決まった旨を報告し、私の班は自由時間の計画を立てることにした。

「時計台見て、テレビ塔登って、ファクトリー行って……」
「ねぇねぇ、晩御飯はやっぱりカニかな!?」
「もう、美香ってば食い意地張りすぎ!」
「だって〜、北海道って言ったら海の幸じゃん?」
「そうだけどさぁ。もー、名前も何か言ってやってよ」
「えっ……ごめん。ちょっとぼーっとしてた」
「大丈夫? あれだったら保健室行く?」
「部活頑張るのはいいけどぶっ倒れて修学旅行行けなくなるなんてのはやめてよね」
「うん、大丈夫。ありがとう」

 北海道に対するもやもやは消えないけれど、このまま考えこんでいても答えが見つかるわけでもなく。今は目の前にある白紙の予定表を埋めることに集中した。



「そうか、名前の修学旅行は北海道か」
「玲奈はお土産何が良い?」
「俺はカニで!」
「晴矢には聞いてませーん」

 放課後の部室で、日誌に本日の記録を書きながら玲奈たちと談話。話題は私の修学旅行について。
 部活終わりのこの時間はこうして着替え終わった部員たちと他愛のない会話をするのが恒例となっているのだ。
 茶々を入れる晴矢をヒロトに任せ、玲奈を見る。晴矢の後ろで風介が何か悩んでいるみたいだけど、あの様子だと大した悩みじゃなさそうなので放置。

「玲奈は何かほしい物ある?」
「特には。名前が選んでくれた物なら、何でも嬉しい」
「嬉しいこと言ってくれるなぁ……ふふっ。玲奈には飛びきり良いの買ってくるね」
「ああ、楽しみにしてる」

 遠慮ではなく心からそう思ってくれているのだと分かっているから私は自然と笑顔になる。玲奈は、照れたように微笑み返してくれた。
 丁度日誌も書き終わったので、誤字脱字がないか確認して日誌を閉じる。すると今まで悩んでいた風介が口を開いた。

「名前、わたしはとうきびモナカがいい!」
「今までそんなことで悩んでたのかよ!? くだらねぇ!」
「下らないとは何だ。わたしにとっては死活問題だ」
「……ねぇ風介、とうきびモナカって何?」
「知らないのかヒロト、とうきびモナカは北海道限定のラクトアイスなんだ」
「へぇー」

「……名前、さっさと帰ろう」
「ふふっ、そうしよっか」

 こんな下らないやり取りも私にとっては掛け替えのない日常であり、幸福であった。


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